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鏡の前で髪を結う。 現実にはわたしの髪は結い上げられる程長くない。 夢の中では背中の真ん中あたりまで在る。 しかも栗色の柔らかい癖毛だ。 白や淡い桃色の小さな花を髪飾りとして髪にさしてゆく。 わたしは珈琲を飲む為に出掛けるらしい。
夕方なのか、青く薄暗い道に雨が降っている。 喫茶店、煉瓦の壁を背に白いテーブルで男が珈琲を飲んでいる。 見覚えはある男だ。 彼の眼は大型犬特有のそれに似て、落ち着いた風体が 学生時代のとある友人を連想させる。
彼は新しく買った本の話をしている。 わたしに向かって話しているのは確実なのだが どうも実感が得られない。 わたしは曖昧に相槌を打ちながら壁面の煉瓦の数を数える事にした。
しばらくすると首筋や背中がぞわぞわしてきた。 足元に眼を遣ると黄緑色の若い蔦がするすると伸びている。 早送りのようだ。 蔦は何処から伸びてきているのかと辺りを見回したら わたしの髪飾りからだった。 花びらはひらひらと散り 蔦や葉だけが勢いよく成長し続けている。 彼は構わず本の話をしている。 喫茶店の店員も他の客も気にしていない。 わたしは珈琲を一口飲んで、 無遠慮に伸び続ける蔦が窓硝子を覆う様を恥じた。
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