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にくんでいません
失うことはこわい。 痕になる傷を負うことはもっとこわい。
階下から見上げる、あの救いを乞うような眼差しに、どう応えればよかったというのか。
互いに道を失って、君は開かぬドアに爪を立て泣き叫ぶ。 わたしはその悲痛な声にほんの少しの安堵を感じながら夜が明けるのを待っている。
互いに道を失って、互いに記憶を捨てやって。 暗く閉じた空に日が差したところで、何も変わりはしないのに、それでもわたしは夜明けを待っている。
時がわたしの指標。 時こそがわたしの指標。
壁の向こうで、愛しい泣き声がこだまする。 憎しみなどもうない。しかしドアは開くはずもない。互いに道を失ったときに、鍵は失くしてしまったのだから。
それでも止まない泣き声に、失ったはずの鍵を求めて、手を宙へ泳がす夢を見、そして、夜が明けた。
泳いだ右手を見つめても、やはり憎しみは湧いてこなかった。
ーーーー分かるでしょう、憎んでなど、いません。
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