基本的に明かりが苦手なので
部屋は暗闇にして神経を研ぎ澄ますようにしている
そうすると雨がポタポタ世界を濡らすように
光が差さないこの空間に沢山の思い出や未来がやってくる
そこに手を伸ばしていつも呼吸を重ねている気がする
思うことは沢山ある
もう20年
岡ちゃんは元気かなとふと思った
小学校4年生の時に転入してきた男の子はサッカー日本代表監督の岡田監督に似てるという理由で"岡ちゃん"というあだ名がつけられた
優しい彼とはずっと仲良しで,中学校の時も3年間同じクラスで学力も同じくらいだったから
高校受験も東高を受験するのかと思っていたら彼が受験したのは福岡の高校だった
親が転勤するとのことで栃木を離れることになるということを知らされたのは入試の少し前で,俺は悲しみに満ちた
"一緒に東高合格するって約束したじゃんか"
そんな言葉が口からこぼれてしまいそうで
胸の奥でひたすら見えない綱引きをしていた
俺が東高に合格し,岡ちゃんが福岡の高校に合格した時も"おめでとう"と伝えることはできたけど
その"おめでとう"の成分が100パーセントの純粋な塊でないことは何となく想定出来た
卒業式を終え
瞬く間に早春が訪れる
3月にしてはとても寒い朝
たけるとたかちゃんと共に宇都宮駅まで岡ちゃんを見送りに行った
白い煙が次々と口から零れ落ちて
春がまだ遠いのかなと感じられて
冷たい街が
岡ちゃんがいなくなることでもっともっと冷たくなりそうで
芯から凍えそうだった
宇都宮駅のホームでこれから岡ちゃんを乗せる新幹線が遠くから風のようにすっとやってくると
時の流れとは早いものだなと感じた
運動会の時の"ヨーイドン"と似た感情で
懐かしさが少し感じられた
岡ちゃんのお母さんが
「せっかくお見送りに来てくれたんだから,ちゃんとみんなと握手しなさい」と少し悲しげな表情の岡ちゃんに伝えると
岡ちゃんとたけるが握手して一言交わして
岡ちゃんとたかちゃんが握手して一言交わして
岡ちゃんと俺が握手を交わした
そして
俺は何の一言をぶつけたのか忘れてしまったけれど
何故こんなにも涙がこぼれるのだろうと思った
岡ちゃんも目に涙を溜めているし,その姿を見た岡ちゃんのお母さんが
「良い友達を持ったわね」と一筋の涙を零す
たかちゃんとたけるも
「賢司泣くなよー」と言いつつも少し声が上ずっているのは明白だった
外気はこんなにも冷たいのに
体内に広がるこの熱は何処から到来したのか
目からいとも簡単に流れるこの感情は何なのだろうかと
岡ちゃんを乗せた新幹線の背中をじっと見つつ
思った
早朝の空が真っ白と水色の間の空で
青色と白色の分量が難しいなと思いつつ
家路を辿る
涙を流した後の空洞と岡ちゃんがいなくなってしまった後の空洞が足し算されて
からっぽになってしまった20年前の自分を
ふと深夜3時に描いてしまった
あれ以来一度も会ってないけれど
連絡先も知らず
20年も顔を合わせてないけれど
いつか会えるよね
岡ちゃん



