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外に出ると桜が舞っていた
花びらにひとつひとつ命があるように,大木から離れた彼らは縦横無尽に自由を楽しんでるようだ おじいちゃんの”ありがとう”という感謝の気持ちが花びらに乗り移ったかのように,ドラマのワンシーンのような春に 僕らは包まれる
名古屋の桜たちが 春を泳ぎ 優しさで満たされた風たちが 僕らと火葬場をぎゅっと抱きしめる
おじいちゃんが亡くなった
葬式が5日に行われると聞き,高橋家はすぐに名古屋に向かった 高速の夜は真っ黒に濡れていた 目の前で車に吸い込まれてゆく白線は 時の流れのようにも見えた おじいちゃんは一体幾つもの白線を乗り越えて人生を走ってきたのだろう 嬉しいこと,悲しいこと沢山沢山受け止めて,たまにブレーキをかけたり,加速したりして 追い越すこともあれば,追い抜かされることもある おじいちゃんが重ねた景色の何分の1を自分は描いてきたのだろう
大学生4年生の時 原付で神奈川から名古屋まで走った 突然1人で行ったら驚くかな?なんてウキウキしたボールを胸の中で弾ませながら,おじいちゃんおばあちゃんがいる名古屋まで10時間,小さなバイクを走らせた トラックのクラクションにまみれながら,排気ガスで喘息になりながら 到着した名古屋の景色はキラキラだった
「何で原付なんかで来たの!?」
と呆れながら問いかけてくる皆の表情に僕は満たされて,胸の奥が膨れた
この日は初めておじいちゃんの部屋に泊まった 電気を消し,暗く静まり返った部屋で天井をひたすら眺めた ずっっっっっと眺めていたら少しずつ天井の木目が動くかもしれない そんな世紀の一瞬を目の当たりにしたくて,天井とひたすら睨めっこしてた
すると静寂の扉をノックするように
「賢司君の行動はお父さんによう似とる」 とおじいちゃんが口を開いた
「えっ?どういう風に?」 と僕は驚く
それから嬉しそうにお父さんのことを延々と話していくおじいちゃんを見て,口角がゆっくりゆっくりあがっていくのを感じた
僕の父の父は 僕の父が大好きなんだなって 何処か嬉しくなった
あの時眺めた天井はもう戻ってこないし,おじいちゃんとの間に流れた静寂ももう生まれることはない
でも トランポリンに弾かれたようなおじいちゃんの言葉の羅列は 今すぐにでも思い出せる 葬式で触れたおじいちゃんは冷たくて冷たくて井戸の底だったのに 声が側にいて温かい
なんでだろう
その温かさが瞳にまで伝染して 零したくはない涙を 一粒も二粒もさらってく
”最後のお別れです”
卒業式に似たBGMが流れ, 青い春をひとりひとりに手渡していく 棺の中のおじいちゃんは花に囲まれて,深い眠りに落ちている
きっと 証なんだと思う
棺を囲み円になる皆も 塩分を含んでいくハンカチも 目の前にいるお父さんも 横にいる兄も 自分も
全ておじいちゃんの生きた証
だから思う 深く思う これしか思えなかった
おじいちゃん生まれてきてくれて ありがとう
火葬場からバスに乗り込むと桜の断片が車内へ飛び込んできた 雨のように降り注ぐ桜の命を見つめてると,ドラえもんみたいな空が背景に見えて,こんな時ドラえもんならどんな道具を出してくれるのかなって ふと思った
バスはエンジンで身体を揺らし,火葬場に背を向ける 桜と空が水色とピンクで埋め尽くされて なんて綺麗な数時間だったのかと思う この水色とピンクの日常の彼方に おじいちゃんが笑っているような気がして少し嬉しくなった
人は生けていれば沢山の死と出会う事になる でもそれが生きていくということなのだと思った 死と出会い,改めて生と向かい合う瞬間はとても大切な時間だと思った
おじいちゃん 長生きしてくれてありがとう ずっと忘れない 本当に ありがとう たくさんの思い出 ありがとう
では 暫しのお別れ 雲の上からKiNGONSを見ててくれ
バイバイ
写真:お父さん三兄弟
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