麻酔と共に眠ったはずの足元がいつの間にか靴を履いて砂利を踏んでいることに気づいて目を覚ました。
一面が砂利で覆われているような、だだっ広い場所。樹もなければ、遠くに山も見えない。霧なのか靄なのか、辺りは白くかすんでいてそれほど遠くまではよく見えない。川のせせらぎの音が聞こえる。だからここは河原なのだろう。
足は、水の音が近くなる方に向かって歩く。どんな川か見に行ってみた。とても小さかった。水の量はほんの少しで、川底の石が透明な水の下にすぐ見えるくらい浅かった。
川底を辿って向かいにふと目を向けると、男の足が見える。黒い靴を履いた脚からゆっくりと視線をあげる。
男は驚きより、こんなところで出会ったことの嬉しさの方が勝って、勢いよく靴が濡れるのも気にしないで水に飛び込んだ。
対岸の男が何か叫んでいるが、よく聞き取れなかった。
向う側に行ってからよく話を聞こう。
向う岸に渡ると、「ばかやろう」と勢いよく怒号が飛んできた。
男はへらりと笑った。
胸がいっぱいだった。こんなにも会いたかったのだと思い知る。
だから、何を言われても幸せだった。
「おめぇはよぅ‥」と呆れたように対岸を見させられると、数秒で渡ってきたはずの川は、運河のように巨大な流れの河に変わっていた。
向う岸に戻れないことはすぐにわかった。だが男は表情を変えず、「だいじょぶだぁ」といつもと同じ顔で笑った。
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ご冥福をお祈りします。
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2020/04/01 (Wed) 21:30 |
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