「誕生日おめでとう」
ゾロはおれの左頬にキスをして、それから前髪をかき上げて右頬にもくちびるを落とす。
それから、細い銀のリボンの掛かった平らな箱を差し出した。
「サンキュ」
ゾロの額にキスをして、その箱を受け取る。
中に何が入っているかは、知っている。毎年ゾロからのプレゼントは、カトラリーが一揃いと決まっている。
幼なじみのおれたちが、最初に誕生日を祝ったのは小学校に入る1年前だ。家がレストランで、その頃にはすでにコックになると決めていたおれに、ゾロは木のスプーンをくれた。カップのアイスクリームについていたスプーンだ。ゾロはアイスクリームを家にあるスプーンで食べて、その平らな木のスプーンをおれの誕生日まで大切に取っておいたのだと言った。
お小遣いをもらえるようになると、それで買ってくれた。小学校まではスプーンだったりフォークだったりが、1本だけ。中学校になると2本になり、大学生になってアルバイトを始めるとぐんと増えて、ナイフ、フォーク、スプーンと、デザート用のフォークとスプーンになった。社会人になってからは、少し高価なものを選ぶようになった。
いつかお前がコックになったら、店で使えよ。ゾロはそう言って、毎年毎年、カトラリーを贈ってきた。それはおれが料理人になった今でも、変わらない。
バラバラのカトラリーは客には出せないが、ゾロが店に食べに来たら、それを出すことにしている。ゾロが気づいているのかどうかはわからない。実際、自分がどんなカトラリーを贈ったのかなんて、買った後にはもう忘れているような気がする。それでもおれは、それを店で使いたかった。たとえゾロ限定でしか使えなくても。
「お前は、コックになるために生まれてきたようなモンだよな」
ゾロはそう言って笑った。誕生日に、時々そう言ってくる。
「だろ?」
おれは笑い返す。
ゴールデンウィークが明けてすぐの、5月9日。ゾロはいつも、その日におれの誕生日を祝う。コックだから、5月9日。小学校に入る1年前から、ずっとそうだと思い込んでいるのだ。
違う、と最初は言おうと思った。だけど、ものすごく真剣な顔で、両手のひらに恭しく小さな木のスプーンを乗せて差し出したゾロに、おれは「ありがとう」としか言えなかった。
初めてゾロに好きだと言ったのは高校2年の『おれの誕生日』で、ゾロも同じだと返してくれた。初めて体を繋げたのはそのちょうど2年後で。だから、5月9日はおれにとって特別な日であることに、違いはない。
「なァ、コック」
ゾロは初めての誕生日に木のスプーンをくれたときと同じ、真剣な目をしていた。そうして、今年くれたカトラリーのように、つやつやと銀色に光るリングを、手のひらに乗せて差し出した。
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日にちを勘違いするのはよくある話ですよね、ってことで。



