「う〜ん…やっぱり相当強くくっついてますねー…ちょっと引っ張りますよ…痛かったり苦しかったりしたら遠慮無くおっしゃってくださいね」
切開部に圧迫が加わり、これまでで最強の力でカテーテルが引っ張られるのを感じた。
「具合が悪くないですか?」
枕元で別の男性の声がしたけど、さすがに笑顔で答える余裕はなく「はい!」と短く返事をした。
「あっ…抜けそうですよ…よ〜っし…取れました!」
室内の空気が一気に安堵感で満たされた(すくなくともそう感じた)。
そしてそれと共に、また新たな疑問がわいてきた。
「血管の途中から挿入されたカテーテルを抜去したら、そこから末梢側の血管にすぐに血液が流れ始めるんですか? あとカテーテルが挿入されていた孔から大量に出血とかしないんですか?」
「その質問は研修医からもよく受けるんですけど、長年カテーテルで塞がれていた血管にはカテーテルを抜いてもすぐには血液が流れないんですよ。」
「へ〜!…つまりもうそれが血液を運ぶ管であるとは身体が認めないってことですか?」
「まぁそういうことですね。 だから格段の処置をしなくてもカテーテル抜去後の孔から出血することは少ないんです。」
ある種の感慨を覚えた。
「先生…今日は採血後ヘパリンロックをせずにフラッシュだけしてもらってるんですけど、抜去したリザーバーを頂くことは可能ですか? 実際にどんなものが留置されてたのか、大きさとか質感とかじっくり触ってみたいんです」
「これを持って帰りたいっていう患者さんは珍しいですねー(笑) けど僕も気持ちはすごく分かりますよ! じゃぁ中もきれいに洗浄してからお渡ししますね」
O医師は切開部を縫合しながら柔らかな声で答えてくれた。
スタッフに導かれて姉夫婦とお由美丼が待つ廊下に出た。
「2・30分くらいって聞いてたけど時間がかかったね」
「どうせまたあんたが先生にいろいろ話しかけて余計な手間を取らせたがやろう!」
「ほんまはびったれ(弱虫)で怖おうてたまらんがやに、またバカみたいに大きな声で笑うて話しよったがやろう!」
……この人たちは全てお見通しだった(苦笑)。
その後主治医の定期受診を済ませ、支払い手続き等をする頃、局所麻酔が少し切れかけてきた。
「手続きを済ませて薬局で痛み止めをもらうまで痛いよな〜!」
「あっ…私ロキソニンを持っちゅうで」
お由美丼が珍しく天使に見えた(笑)。
他人用に処方された薬を使用するのは本来は当然禁忌だが、お由美丼が持ってるのは市販薬だし、たまたま今回処方された痛み止めも同剤だったのでありがたく頂戴した。
瀰漫性大細胞型B細胞リンパ腫(ステージ4)に対する多剤併用治療を終えて、この2月で丸5年を迎える。
それを目前に、こうしてまた一つ大きな節目を超えた。
「結局は今しか生きられないのなら
めいっぱい今を生きてやる」
昨年作った「風」の一説がふと口を突いた。