それは、これまでの報道で、いやというほど聞いてきた「その時」の状況の一例だったのだが、実際に体験した人の波動を直接感じながら聞く話は強烈なリアリティーを持って伝わり、気がつけば相づちを打つこともできず、ただただ黙って聴き入るばかりだった。
そんな様々な思いを胸に、これまた様々な思いを抱えているであろう被災地の皆さんを前に、ジョイナスで午後3時から、かめ七呉服店で午後7時から、それぞれ1時間半のライブを行った。
「障害者」として生きるのではなく、一人の人間として強く生きろという亡父の教えを改めて噛みしめながら、「被災者」としてではなく、一人の人間としての日常を少しでも早く取り戻せるように、そんな祈りの気持ちが、ぼろぼろの喉を鼓舞して声を出させてくれた。
「笑顔の花」はもちろんのこと、「気を張って泣くことすらできない」という方のお話しも伺ったので、自身の心情に重なる人には遠慮無く泣いてもらおうと、「実家」や「やさしさの種 いのちの花」も心を込めて歌った。
「久々に思いっきり泣かせてもらいました、ほんとにありがとう。」
「笑顔の花を一緒に歌っていると、なんだかとっても元気が出ました、ありがとう。」
「きれいな声に癒されました、ありがとう。」
ほんとに沢山の「ありがとう」をいただいているうちに、また涙があふれた。
翌日は、以前からどうしても訪れたかった場所の一つである大川小学校へ向かった。
途中、かめ七呉服店とジョイナスにご挨拶に行くと、「聴きに来た皆さんが本当に喜んでおられましたよ」と、嬉しい言葉をかけてくださった。
そしてジョイナスでは、落合さんが大川小学校のことを話してくださった。
「亡くなったり行方の解らない子どもたちのお父さんやお母さんが、津波のことは話したくないけど、子どもたちのことを話したくて今日も学校でランチをするんですよ。
お線香をお渡しするので、どうぞお供えしてあげてください。」
全校児童の7割が津波に巻き込まれて、亡くなったり行方不明になった大川小学校は、想像以上に山際に有った。
震災前、学校の周囲には多くの民家や公民館などが建っていたらしいけど、今は何も無い。
モダンな建築の校舎は骨組みだけを残していて、運動会などで使っていたであろうラッパ型のスピーカーが潰れて、てんでにあらぬ方向を向いている。
直径1mも有ろうかという大きな柱が曲がり、渡り廊下は途中で引きちぎられている。
震災前の写真を見ると、その渡り廊下の先には2階建ての建物が在ったようだけど、今は影も形も無い。
「途中で壊れているあの橋の方へ、上級生が先に立って逃げているところを津波に襲われて、後ろの下級生は、前でお兄ちゃんやお姉ちゃんが次々に流される様子を見ながら、先生に連れられ山の方へ引き返したんですよ」
ふと耳を澄ますと、小鳥のさえずりが聞こえる。
ただ、学校の音風景には絶対に欠かせない元気な子どもたちの声だけが聞こえない。
校庭で楽しく走り回っていたであろう子どもたちの声が、一瞬にかき消されたのだ。
改めて、誰かを責めるようなことではないと思った。
大変な事態の中で、みんなそれぞれ必死に子どもたちを守ろうとしたはずで、誰一人として悪い結果を予想して行動した人など居ないだろう。
もしも責められるとすれば、経済活動や利便性を追求する余り、何度も何度も繰り返されてきた自然からの警鐘や、それに伴う大きな犠牲さえも忘れて、分を超えたエリアに踏み込んできた、こりない人類(もちろん僕も含め)だと思う。
からからと風車が回る慰霊碑の前では、長い間動こうとせず祈り続ける男性が居る
「ずいぶん年老いているように見えるけど、きっとあの人は子どもさんを亡くしたお父さんなんだろうね」。
寒く苦しかったであろう子どもたちが、今は少しでも辛さを感じていませんように。
今はただ、それだけを強く念じて手を合わせた。
昼近くに石巻を車で出発し、仙台から新幹線で東京に向かった。
5時前に立川のホテルに入り自室で一人になると、一気に心身の疲労を感じてベッドに倒れ込み一瞬で爆睡した。
宮城テレビの取材による番組は、宮城テレビと高知放送テレビで18時台のローカルニュース枠で放映され、高知放送では、VTR後に僕がホテルから電話で生出演した。
インタビューを受けながら、思い出すことの全てが涙に繋がるけれど、石巻の皆さんは決して日々涙にくれているわけではなく、むしろ今を必死に前向きに強く生きているわけで、ほんの一瞬被災地に入って、ほんの上辺だけを見た僕なんかが、めそめそ泣いていることが、とても恥ずかしいと思った。
その後今回のツアーの後半を企画してくださった「カーニバルカンパニー」の「しおみえりこ」さんのご主人で、クラリネット奏者の橋爪恵一さんが、夕食をご馳走してくださるということで橋爪家にお邪魔した。
しおみさんが「我が家のシェフ」と言って憚(はばか)らない橋爪さんの料理は正に感動もので、それぞれ具材をかえた焼き餃子と、ゆで餃子、そして醤油控えめで素材の風味を存分に生かしたキノコご飯は絶品だった。
それにも増して感激したのは橋爪さんのお人柄で、細やかな気配りをしてくださりながら、あくまでも自然体で笑顔を絶やさず、とても幸せな時間をすごさせていただいた。
さて、今夜は立川市民会館「アミュー立川」で、カーニバルカンパニー主催のイベント「ミュージック&アートin TAMA vol.33 「堀内 佳 歌の風景」。
石巻での思いを胸に、精一杯努めよう。