相変わらずKは時計台のあるマンションのY号室に住んでいる。
あれから二日後、X号室の住人が菓子折を持ってK宅を訪れたが、
「別れた女が荷物を取りに来てたんですけど僕は酔っぱらって全然気づきませんでした!」という彼の説明に、全く納得できないKであった。
「わざわざあんな時間に荷物を取りに来るか? いくら泥酔してても、1時間もの間ドアに跡がつくほど蹴ったり叩いたり揺すったりされて気づかないわけねぇだろう!!」……
しかも、Z号室のMさんにも一言謝っておくように勧めたKに「わかりました」と答えながら、未だに行った形跡は無い。
そんなあきれ話を酒の肴に飲むことにさえKはほとんど飽き飽きしていた
Kは幼い頃から気象現象に対して並々ならぬ好奇心を燃やす。
近年希な大型台風が日本列島を伺っていたこの夜も、彼は台風本体の情報や、今後その進路や勢力を左右するであろう、下層の気圧配置や上層の気流、そして海面温度に至るまで、
あらゆる情報をできる限りの手段を用いてむさぼり、夜半頃ベッドに入った。
どれくらい時間が経ったか、Kはなんとも言えない不思議な感覚で目覚めた。
玄関先でなにやら音がする。
ただそれが自宅の玄関なのか隣室の音なのかもすぐにはわからなかったし、しばらくは夢なのか現実なのかの判断すらできなかった。
というより、一人暮らしのKにとって、夜中にいきなり自宅の玄関内で音がすることそれ自体、すぐには受け入れられないことだったのだ。
しかし急速に覚醒し鋭敏さを取り戻した彼の意識は、はっきりと玄関内に確かな人の気配を察知した。
時計は2時7分を指していた。
「どなたですか??」
鍵を閉め忘れたことを少し後悔しながらも、言葉の丁寧さとは裏腹に、自分でもちょっとすごみすぎたかと思うような強い口調でKは言った。
「なに〜!!」……
ゆっくりした男の声だった。
咄嗟にKは、護身用に持っている特殊警棒を左手につかんでベッドを降り、寝室から廊下に足を踏み出すと同時に、思いっきりそれを振り出した。
ガチャッ!!
思いの外鋭く大きな音を響かせて警棒はフルサイズに伸びロックした(もちろん実際に当てたわけではない)。
「あっ! すっすみません、そんなつもりじゃぁ……」・・・・・
男は慌てて出て行った。
Kはしばらく男の足音を耳で追った。
男は早足で、しかし途中からはゆっくりと階段を降りていったようだった。
Kはグラスに氷を入れ、水を注いで一気に飲んだ。
きっと部屋を間違えたのだろうが……!!
そう言えばKも昔部屋を間違えたことがある。
酔っぱらって帰った深夜、同列階下の部屋の鍵穴にキーを差し込んでガチャガチャやったが当然回らない!!
階を間違えたことに気づいたKは、まさに後をも見ずに階段を逃げ上がった!!
しかし今夜のヤツは鍵をガチャガチャやらなかった。
そのまま静かにドアを開けて侵入した。
いやもしかしたら、Kが目覚める前に長時間ガチャガチャやってたのかもしれないが……
今となっては事実は侵入者と共に闇の中だ。
そしてKはつくづく思った。
「マンションを買うぞ〜〜!!」
読者諸君、寝る前には戸締まりと火の始末をくれぐれもお忘れ無く。
ねっ眠い〜(/_;)