この眼に映った姿は真実なのか
この耳に届いた声は真実なのか
白は本当に白なのか
黒は本当に黒なのか
それすらも知ることなく
ただ生きるしかなく
ただ己の感じることを信じるしかなく
混沌とした全てを信じ込むしかなく
流れる血の熱さだけが明確で
失われる熱を感じて
やがておとずれる時の終わりを感じて
それだけが唯一の確かなことだと思い知る
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no title [side B] |
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世界
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この眼に映った姿は真実なのか
この耳に届いた声は真実なのか 白は本当に白なのか 黒は本当に黒なのか それすらも知ることなく ただ生きるしかなく ただ己の感じることを信じるしかなく 混沌とした全てを信じ込むしかなく 流れる血の熱さだけが明確で 失われる熱を感じて やがておとずれる時の終わりを感じて それだけが唯一の確かなことだと思い知る |
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2011/12/31 (Sat)
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再度、別れる
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「市丸、もう背負わずともよい」
東仙が囁くと、市丸は驚きもせずに、そうですか、と柔らかな訛りで応えて東仙を穴の縁に下ろした。目覚めたことに気づいていたか。東仙は市丸に顔を向ける。静まり返った気配。 「東仙さんは、どないしはるん」 訊く気などない声。 「まずは少し考えることにするよ……消えなければね」 縁に立っているだけで重い霊圧に息が詰まる。東仙は大きく息を吐いた。地獄か。自分が進む先にあるとは考えもしなかった。東仙は笑みを浮かべた。 「では、市丸。消えなければまた会おう……そして、あの場から私を連れ出してくれたこと、礼を言う」 「……ほな、また」 さざ波のように揺れる空気。市丸がひらひらと手のひらをふっているのだろう。東仙は地上を見上げ、近づこうとしない山本を振り仰ぎ、一礼する。 そして重い霊圧に向き直り、ゆっくりと体を傾けていく。 |
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2011/05/31 (Tue)
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白い街並み
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振り向いて、藍染は市丸の視線を捉えた。市丸は笑っている。これまでとは違う、吹っ切ったような、明るい顔で笑っている。金色の髪束を握りしめて笑っている。
それが、腹立たしい。 背負われている東仙の気配が柔らかだ。気絶から覚めているのだろうが、東仙は何も反応を示さない。考え込んでいるのか、恐らくは戦っていただろうかつての友に思いを馳せているのか、静かに市丸に背負われている。 それもまた、腹立たしい。 群れなければ生きられない、何かに寄り添わなければ生きていけない、愚かな生き物だった。結局は。全ては。己以外の全ては。 「藍染よ」 低く、山本が呼び掛ける。振り返り、藍染は視線を向けて、応える。 「おぬしもまた、世界の中で這いずり回る者でしかないぞ」 見透かしたように、山本が言う。 「その力も、思考も、孤独も、世界の理から生じたものじゃ」 「だから、なんだと」 思わず口の端に笑みが浮かんだ。 「諦めて、この矛盾と理不尽と無駄に溢れた醜い世界に唾棄して、死ねと」 「いや」 山本の否定と、市丸がかすかに笑う気配は同時だった。 「諦めず、ただ、おぬしの苛立ちや怒りや孤独の、その奥にあるものを見て、そして死ね……その前に今ここで死ぬかもしれんが」 熱を、感じた。 「それもまた、致し方ない」 轟音とともに炎が渦を巻いて藍染を襲う。背後から市丸の気配が消えた。上、いや下というのか、藍染は堕ちている穴を見上げた。市丸が、薄く、笑って、刀を構えた。炎の渦の先で。 伸びてきた刃を、片腕で支える刀で滑らせるようにそらす。反動で、炎の壁に押しやられ、藍染は咄嗟に市丸の刀に足をかける。踏み込み、勢いをつけて、渦から抜ける。 踏み込まれて体勢を崩した市丸とすれ違う。 「ほな、また」 瞬時に長さが戻った刀を市丸が払うように振る。それを叩き落とすように払い、藍染はさらに、堕ちた。 「地獄でお会いしましょか」 ひらひらと市丸が手を降っていた。 その背では炎が消え、遠くなった瀞霊廷が穴の縁に切り取られて見えていた。 |
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2011/05/06 (Fri)
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世界を離れても
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東仙は意識を取り戻していた。
市丸の背で、動かずに、世界を語る山本と市丸の会話を静かに聞いていた。重い霊圧ともつかない圧力が伸し掛る。そんな圧力など感じさせない声で、市丸が言う。 世界は、美しい、と。 東仙には市丸の姿は見えない。眼を凝らしても、何も見えない。 ただ肌に感じる市丸の霊圧はもうすでに死神のそれとは違った。死神を捨てた自分とも異なる、上から伸し掛る圧力と近しいもの。 異形。 それでも、言うのか。東仙は思う。 世界は、美しいと。 |
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2011/04/03 (Sun)
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それは再会のときに
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吉良は空をみあげていた。
檜佐木の背後で、東仙を抱えて空へと去っていく市丸を、ただじっと見上げていた。 市丸は、最後に、確かに吉良を見た。 見て、困ったように眉を下げて。 堪忍な。 そう、唇を動かした。 「……今度、愚痴も文句も全て、聞いて頂きます」 小さく呟くと、本当に叶いそうな気分になって、それは戦いに赴くことだと理解していたけれど、吉良は小さく笑う。 |
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2011/01/10 (Mon)
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