破面と戦うのも、これで幾度目だろう。空の割れ目から漏れる霊圧に、恋次は刀に手をやった。この身を押し潰すように漏れ落ちる霊圧は、歓喜の色を帯びた殺気に満ちている。
もう少しで、数体は堪え切れずに飛び出してくるだろう。恋次は頭の中で、それぞれの隊の配置図を広げた。力のない死神は避難させた住民の護衛として遠い流魂街にいるが、席次の小さい、実力のある死神は残ってそれぞれ配置についていた。死神には住人以外にも護るものは多くあった。いや、瀞霊廷に象徴される全てを護らねばならなかった。それの善悪は問わずに。いや、善悪という、曖昧な、流動的な区別すらなく。
恋次はまず、雛森の顔を思い浮べた。痩せて、力なく笑う雛森は今どんな思いで空を見上げているだろう。雛森の配置を確認し、恋次は眉をひそめる。額の入れ墨が歪んだ。自分の位置と同じく、苛烈な戦いになると思われる場所だった。だが、それは仕方なかった。副隊長という立場にいる以上、前線で戦うこと以外は許されない。見張り役としてではあるが乱菊が傍にいることが、恋次にとって安心材料だった。まだ揺らぐ瞳を見せる雛森を思い、恋次は気遣わしげに笑う。
次に恋次は、吉良と檜佐木の配置を思い出した。彼らは共に空を見上げているはずだった。檜佐木にもまた、吉良を見張るという任務があった。
「……吉良は心配ねぇけどなあ」
小さく呟いて、恋次は溜め息を吐いた。あの事件直後の詰問から始まる周囲の不信、流れる噂。三番隊内部に蔓延する諦めと憤り。そして自分の内部に巣食う喪失感と後悔。吉良はそんな状況のなかで黙って隊長不在の隊を支え、まとめていたのだ。
しかも、雛森を気に掛けながら。
そんな吉良が、再び迷うことがあるだろうか。
もちろん、それには周囲の支えがあったろう。それでも潰れそうな時もあったろう。しかし、吉良は自分の足で立っていた。
恋次は順番に、気に掛けている人物の顔を思い浮べ、彼らの配置を確認した。戦いの前にこんなことをしているなんて、何の虫の知らせかと笑い、恋次はその笑みのままルキアを思い浮べた。
確か、ルキアは四番隊のどれかの班を護衛していたはずだ。恋次はその配置を確認して頷く。救護班を護るのだから移動はあるだろうが、中枢からは離れたままだろう。
それに。恋次は小さくルキアの名を呼んだ。大丈夫だ。もう、おまえは大丈夫だ。
空の割れ目から何かが飛び出した。恋次は己の霊圧を一気に解放する。それにより遠く離れたルキアのそれを掻き消せないかと、恋次は殺気にも似た霊圧を空へ向けた。