世界が揺れる
白と黒は混じり合うことはなく
隔てられ
牽制し
侵略する
焦がれるほどの妬みか
嘲り笑う蔑みか
ただ突き動かされて血を流す
流れる血だけは赤く赤く
双方を染めあげていく
その狭間で耳を澄ます
世界をくれた人の呟きを聞き逃さないために
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no title [side A] |
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せかい
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世界が揺れる
白と黒は混じり合うことはなく 隔てられ 牽制し 侵略する 焦がれるほどの妬みか 嘲り笑う蔑みか ただ突き動かされて血を流す 流れる血だけは赤く赤く 双方を染めあげていく その狭間で耳を澄ます 世界をくれた人の呟きを聞き逃さないために |
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2011/12/31 (Sat)
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約束の言葉
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額と額をつけた一瞬、目の前が金色になった。
ギンは息を止める。山吹色の髪が戦闘の炎の色を照り返して輝いている。それは戦いの中にあって柔らかで明るくて、息もかかるほどに近い乱菊の白い肌も輝かせている。乱菊の青い目がギンを覗いている。空の色。そしてこの光は、朝の光。ギンは笑う。闇の中の自分の唯一の目印。焦がれてやまない、先を照らす光。おそらく地獄でも、今と変わらず輝くだろう。罪深さと、苦しさと、喜びと、感謝と、全ての感情が一度に溢れだす。その感情を全て映して乱菊の青い目が細められた。 乱菊が微笑んでいる。 微かな、呼吸の音が聞こえる。 ふわりと甘い香りがする。 血の香りも混ざっているはずなのに、乱菊はいつもどこか甘い香りを漂わせているのをギンは思い出す。子供のころからどこか微かに甘い。 瞬間、ギンは自分の姿も現在の状況も忘れた。 幼いころからずっと、かわらず、乱菊はこうして傍にいようとしてくれている。久しく感じていなかった柔らかな存在、香り、そして山吹色の光。それらがギンを包みこみ、瞬間だけ、ギンにかつての日々を見せる。 ずっと、一緒。 ギンは口を開く。 |
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2010/07/19 (Mon)
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望みはただそれだけで、それが叶う世界はどこにもなくて
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耳障りな音が、ずっとしていた。
乱菊は体の芯が震えているのを感じる。この音は、聞いたことのない音だ。背後の、ギンが、別の世界のものに組み換わる音だ。呪が展開している。ギンを、組み換えている。虚圏よりも遠い、理の異なる世界へ行くために。震えが止まらない。乱菊は前を見ているしかない。振り返ったら、この震えは全身に広がってしまう。きっと、抑えきれない。 ギンが、完全に離れてしまう、その感じたことのない感情を。 いつだってギンは自分を置いていった。もう帰ってこないと思ったことも数え切れない。この騒動だって、殺しあうことになるだろうと覚悟していた。 それでも、全く離れてしまうこととは違った。 理が違う。違いすぎる。 そして自分を組み換えるには、霊力が足りないことを、乱菊は自覚していた。 体を引きずってきた雛森が展開した防御結界で、少し息が楽になった。目の前のやちるも大きく息をついた。雛森は振り返らない。ギンをも庇うことになっているのだが、それをどう思っているのだろう。乱菊は問うことはできない。それを飲み込んで、雛森は結界を展開させている。 「……ギン」 「なんやろ」 振り返らずに呼びかけると、ギンが柔らかい声で返事をする。きゅうと胸が痛くなる。 「あたし、まだ、ついて行けるほどに強くないのよ」 「知っとるよ」 「それを知っていて、行くのね」 「……うん」 戸惑いながら、はっきりとギンが意思を示した。乱菊は唇を噛む。溢れてきた言葉を全て抑え込み、一言、 「一緒に、いきたかった」 とだけ言った。 この世界でも、それはもう叶わない。 向こうの世界には、自分が行けない。 そんな、叶わないほどの望みなのだろうか。ただ一緒にいたかった。それだけなのに。 それだけだったのに。 |
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2010/05/05 (Wed)
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醒めた夢
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ギンは笑った。これが結末なのだろうか。地獄の蓋は開かれた。あとはもう堕ちるだけだ。
手のひらから展開した呪が逆流するようにギンの手を、腕を、全身を包む。肌を焼く痛みが走り、刺青のように呪が体を変えていく。死神から別のものへ。 目の前の乱菊は振り返らない。ただ呪が展開する音に体を強張らせたのが分かり、ギンは歪んだ笑みを崩して柔らかに微笑む。 乱菊。 今度こそさよならや。 独り言のような囁きに乱菊の体が震える。 夢は醒めた。 醒めてしまった。 ボクは行く。 ギンは言葉を飲み込む。 キミは、どうする。 |
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2009/03/07 (Sat)
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愚者
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この背中を何度見上げたことだろう。
半分赤く染まった視界に乱菊は呆然と思う。広い背中。息を切らして上下する肩。汗ばんだうなじに貼りつく銀髪の襟足。目に映るそれらは全て変化した。背中は広くなったし、肩は厚くなった。首は太くなった。しかし。乱菊は思う。しかし変わっていない。何一つ、変わってなどいなかった。 この男はいつだって、こうして必死に駆けつけて自分を庇う。 ギンが近づく気配を感じたときに、乱菊は内臓を絞られるような痛みを感じた。ずっと感じていたそれより激しい痛みを、乱菊は歯を食い縛って堪える。これくらい耐えられずに、どうしてこれから先も嘘をついていられるだろう。ギンはずっと黙っていた。それに付き合うと約束した。乱菊は藍染を睨み付ける。決してギンを振り返らない。振り返ってはいけない。 一瞬、藍染の霊圧が重くなった。その重さに耐えかねて、乱菊の膝が意思に反して折れた。顔を仰ぐと、藍染は笑っていた。 抜けるような青い空を背に、藍染は口元だけで笑っていた。 試される。 乱菊は言葉を飲み込んだ。ギンが試される。試されている。 ならば。 それならば。 そう覚悟を決めたのに。 乱菊は思う。どうしてこの男はこれまでの全てをかなぐり捨ててこんなことをしているのだろう。誤魔化せない。もう誤魔化せるわけがない。藍染への裏切り行為にしかならない。周囲も、藍染も、この自分にすら何も言わずにいたのに。 ギンは息を切らしている。それを整えようとしてか、大きく息を吐いた。そして数回、呼吸をする。 「……怪我、堪忍なあ…………乱菊」 かすれた声。乱菊は唇を噛んだ。赤い視界が歪む。力の入らない手を握り、乱菊は声を振り絞る。 「…………めちゃめちゃ怪我してるわよ……ばかね、ホントに」 本当に。 二人とも。 乱菊は歪みそうになる顔を堪えて、ゆっくりと立ち上がる。血がぱたぱたと落ちて屋根で跳ねるのが見えた。足袋に赤い飛沫が染みる。 |
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2008/02/24 (Sun)
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