激しい熱を前方に感じてギンは焦った。
何があったのか。幼い頃にしか感じたことのないこの熱は、乱菊の枷が外れたときのものだ。霊力が暴走の一歩手前で溢れ出している。
「乱菊」
口から零れ落ちる呼びかけはまだ届かない。
「乱菊」
お願いやから。
ギンは速度を上げた。
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熱
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激しい熱を前方に感じてギンは焦った。
何があったのか。幼い頃にしか感じたことのないこの熱は、乱菊の枷が外れたときのものだ。霊力が暴走の一歩手前で溢れ出している。 「乱菊」 口から零れ落ちる呼びかけはまだ届かない。 「乱菊」 お願いやから。 ギンは速度を上げた。 |
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2007/12/29 (Sat)
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闇の色
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痛みが走る。
肌の上のそれではない。赤い液体が飛び散るが、それは目に映るだけで乱菊は特に何も感じない。痛いのかもしれないが、乱菊の中で何かが切断されているのか、伝わらない。 痛いのは、体の底だ。 痛くて痛くてたまらない。 何かを叫びたい。 叫べば、何かを吐き出せるように乱菊は思う。 尽きることなく溢れ出すだろうけれど。 あの暗い夜を乱菊は思い出す。 闇の色はあの夜から常に体の底の底にあった。ギンが消えた闇の色。部屋には灯りがあったのに、灯りの下だったのに、ギンは乱菊の奥底に闇を入れた。ギンの抱えていたそれは、あの夜にギンを飲み込んだ。 ああでも。 乱菊は歯を食いしばり一撃を受け止める。 ああでも、あの夜、あたしは、あんたの闇を受け入れたのに。 ずっとずっと昔から、受け入れる覚悟はできていたのに。 血が凝り固まった色が疼く。 痛くて痛くてたまらない。 |
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2007/11/02 (Fri)
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渦巻く感情
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体中の細胞が真っ黒に染まる。
息がうまく吸えない。 内臓が絞り上げられて、心臓が握り潰されて。 それでも崩れ落ちてはいけない。 あたしは、刀を構えなければならない。 |
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2007/09/21 (Fri)
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愚者
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なんて罪深いのだろう。
なんて愚かなのだろう。 悲鳴のような霊圧を感じているのに、消滅の香りが充満しているのに、それでも、ボクは感じている。 喜びを。 |
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2007/08/27 (Mon)
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笑み
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乱菊は、笑っていた。
可笑しかったからではない。艶然としているとよく評された微笑みは、乱菊にとってはいろいろなものを覆い隠す仮面だった。哀しさを、寂しさを、憤りを、嘘偽りを綺麗に隠す。乱菊は感情豊かな大人になったけれど、その奥底にあるのは幼いころから手放せない、生きるために手に入れた正反対の性質だった。 藍染を見上げて乱菊はにこりと笑ってみせる。この男が何を考えて尋ねているのか、まだ乱菊はわからなかった。ギンに何かあったのか。自分と道が別れたあと、どうしていたのか。乱菊は知らない。知る術もなかった。 けれど約束は、約束だった。 手元に残された数少ない、つながりだった。 「あたしよりも友達の方がギンとは仲良かったわよ。あんたも知ってるでしょう、あの子達を」 藍染は鷹揚にうなずく。 「知っているとも。黒髪の娘とは特に親しかったようだから、君の事を気にしてはいなかった」 「そうでしょうね。あんたのお眼鏡にかなうような実力でもなかったし」 そこで藍染が小さく笑う。 「そんなことはないよ。ただ単に、君が私の好みではなかっただけだ」 意外な答えに乱菊もまた小さく、本当に笑った。 「あら、残念ね」 「だって君は、決して私と同じ道を歩くことはないだろう? 愛された者よ……だからこそ、君とギンが親しいとは考えなかったのだがね」 青い空を背にして藍染が乱菊を見下ろした。その目は笑みの形をしてはいるが酷く冷たい。笑っているのは本当だろうと乱菊は感じた。確かだが、それが冷たいのだった。 |
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2007/06/21 (Thu)
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