こちらとあちらを繋ぐひびが通り抜けるのに十分な大きさになる。淀んだ空気が、瀞霊廷独特の清浄な、どこか冷ややかな風に揺れた。風は吹き抜けてきて髪を揺らし、額がくすぐったくてギンは左手で前髪をかきあげた。日差しが眼に刺さる。ずっと夜の世界にいた体には、少し痛い。
ひびから最初に飛び出していったのは十刄の中でも血気盛んな者数人だった。瞬時に消え去る白い影を見送り、ギンは眼下の瀞霊廷を眺める。日の光を反射する真っ白な壁、鈍く黒光りする瓦。瀞霊廷は、自分達の痕跡をきれいに消し去り、ただ静かで、美しかった。
あの夏の日に光の中から見下ろしたこの街は、各所で起こった戦いにより多くが破壊され、瓦礫となり、血と埃で薄汚れていた。壊れ果てた瀞霊廷も、血と埃に汚されることなく輝く山吹色も、遠ざかり小さくなっていった。
あの日は、遠くなった。
瀞霊廷はかつての、まるで今の自分達が幻だというようにかつての姿でそこにあった。ギンはそれを細めた眼で見下ろす。
「相変わらずだな、ここは」
背後で藍染が呟く。嘲りを含んだその声にギンが振り返ると、藍染はうっすら笑みを浮かべていた。
「何が起きても全て飲み込み、何もなかったような顔をする。その裏で腐り落ちるものを無視してね」
藍染はどこか遠い眼をして瀞霊廷を見ている。
「いっそのこと、ここを出ていく時に全て壊してあげればよかったな」
「藍染隊長はここを好いてはったんやねえ」
ギンの言葉に藍染は可笑しそうに片方の口の端を上げた。
「そうだね。そういう言い方もあるだろう」
小さく笑う藍染を、ギンは笑みを張りつけた顔で眺めていた。