【※重要なお知らせ】Alfoo有料化への移行に伴う重要なお知らせ。
【眠れぬ乙女 夢寐する麒麟】


箱庭
海と見間違ったのだ。
ホースを手に、水を撒き散らしながら坂をおりていく。
この街に住む女の子が先頭に立って案内してくれる。私はついていけば良いだけだ、通行人に水鉄砲くらわせることも気にせずに。
途中立ち寄った商店で店の者が、目的地はこの場所から遠くないという。
緩やかなカーヴを描く坂を曲がったその先に、寥廓たる海が拡がった。
いや……。
海ではなかったのだ。
それは砂海。風に晒された白い砂が、流動する波に見えたのだった。
日に焼け、乾いた真砂は煌めきながら潮を描く。
空は水色というにはあまりにも水色で、ただただ宏大で、ただただ空虚で、ただただ静寂が待つばかりだった。
水車のような遊具がある。いや水車というか、まるで巨大なハムスターの回し車のようだ。
砂の海に聳え立つ巨大で色鮮やかな遊具。
静まり返ったさみしい砂の遊園地。
握りしめたホースのビニルの感触を思い出す。
思えばあのホースは一体どこから伸びていたのだろう?ずいぶん坂を降りて来た気がするのだ。
2016/09/27 (Tue) 2:48



鬱血
駄目もとで、自分の意中の人を花火大会に誘う。好意を寄せる人ではあるけれど、いつも私はこの人に対しては怯えている。びくびくと、様子をうかがうように尋ねる。
きっと断られるだろうと思っていた。
ところが案外すんなりといい返事を貰えたのである。
浴衣を着て、彼と二人で電車を待つ。駅のホーム。電車は遅延している。黒壇が空虚に拡がる。恐れていた。私はいつも、この人に対して。拒否されることや拒否することを。
どこまでも浸透するような闇がいつまでも明けないのを翹望する自分が、駅のホームで待っている。電車は遅延しているのだ。
2016/09/16 (Fri) 18:11


ホムンクルス
夜道を何人かで散歩している。鬱蒼と草木の生い茂る沼が私たちを呼び寄せた。
私の隣に居る男子が「数日前にここで友人が自死した」という。
懐中電灯で照らされたその先に、マネキンが立っている。解剖学的肢位に直立したそれは左足だけが焦茶に塗られている。
死亡した友人は、左足を失っていたと語る。

終わらない攻防戦に草臥れていた。
白昼堂々と不法侵入を試みる男の集団に悩まされているのだ。
彼らは隙あらばどこからだろうと家のなかに入ろうと、手をねじ込み足を踏み入れる。
強盗する気はないようだが、とにかく我が家へ闖入し、厭がらせをしたいようである。
全く以て心当たりはない。顔も知らない野郎どもだ。
とにかく家中の鍵をかける。玄関、キッチン、部屋の窓。どんな小さな窓だって彼らは見逃さない。

とにかく家族だけで防ぐのは限界だ、警察へ電話をかけようと言う。
家の固定電話で110番をする。
壊れかけだからかしかし、まったく別の番号へ繋がってしまう。指はまちがいなく[110]を押しているのに。
携帯電話でかけてみる。それもまったく別のところへかかってしまうのだった。
調べると、契約しているプランが格安なために、110番ができる設定になっていないらしい。
そんなことがあって堪るか!

不毛且つ不条理な闘いを続けなければいけないのであった。

目が覚めて、思わず確認のために110番をするところであった。
2016/09/10 (Sat) 20:45


結晶の話
講演を聴きに来ている。
脱獄犯として名を馳せた柔整科の先生が講師らしい。
人形のような真っ黒の髪を撫で付け、壇上にその高身長とエネルギーに満ち溢れる顔貌が映える。
聴衆はこころなしか若い女性が多い。
なぜ収容されたのか、なぜ脱獄したのか、それは解らない。簡素なプロフィールの書かれたチラシを握りしめる。
なんの講演なのかも全く解らない。先生がだらだらと喋り続けているだけのようにも思える。

壇上の傍らに綺麗なオブジェが飾られている。小さくてカラフルな宝石が幾つも紐でぶら下げられているのである。光に当たって爛爛と揺れている。

なんにも身にならないスピーチだが、すべてが煌々と見える様に羨望のような感情を抱いていたかもしれない。
なぜ収監されたのか、なぜ脱獄したのか、なぜいまここで、喋っているのか。
解らない。
珠玉は震えるように色を放つ。
2016/09/08 (Thu) 19:26


60兆個の細胞
草叢に荷物をひろげている。勉強用のノートが開いている。
突如として大粒の雨が降りこめる。罫線の引かれたノートが無秩序な水玉模様に染まっていく。
体でそのノートを庇いながら、ちかくに居た猿が助けてくれる。それは野生のものなのか、私が飼っているものなのか解らない。ふわふわとした毛のニホンザルである。よく見るとその辺りにたくさんのさるが居た。薄茶色のその毛玉に導かれて雨宿りをする。雨と草のにおいがまじる。嫌いじゃない。

JRのミスで電車が目的地でない駅に着いた。
携帯で母に電話をかけ、車で迎えにきてくれと頼む。頑なに断られて電話は切れた。
私は私で意固地になり、自分で帰るのは負けだと思い、その駅で6時間も待ち続けた。
ただ苛々しながら待ち続けた。

クラスメート達と継ぎ接ぎされたような建物で共同生活をしている。
いや、建物なのか解らない。船だったかもしれない。
たくさんの椅子やソファが並び、床は軟らかく軋み、梯子は腐り留め金も仕事などしない。
強いて言えばSIRENの屍人の巣窟のようなところだ。ただあんなに物騒ではない。
建物の中にはたくさんの鏡が張り巡らされ、それは目隠しのような役割をもっていた。
ただの鏡ではなくマジックミラーである。
その遮蔽により私たちは男子と女子に分けられていた。
自分が何ものか、相手が誰なのか、存在するのかしないのか解らなくなるような半透明な世界で蠢いていた。魂だけの存在になったような気分である。
ただ間違いなくそこに肉体は在るのだった。
2016/08/23 (Tue) 23:34


ヘモジデローシス
必死こいてしがみつく程、この世界は魅力的じゃない。
誰も彼も同じような顔で同じようなことしか言わない。
圧力や湿気を帯びたような薄くのばされた空気を奪い合う。
鮮やかな空の青や木々の緑やTシャツの裾を汚し合う。
いつもいかにして救済されるかをしか考えていない。
研ぎすまされた金属のように、或はひとつの正義であろうとするたびに、群衆の熱で溶かされ折られ型に嵌め込まれるのである。
敵でも味方でも順序をつけたがる。
金でも知識でも名誉でもそこにあれば蟻のように群がる。
そして食い尽くされれば唾を吐いて終わりなのだ。感謝のひとつもない。
この球形の世界に、足を踏み込むスペースがあるだろうか?
肩をぶつけ合い、隙間を赦さない完璧な世界のどこにしがみつけと言うのか?
2016/08/21 (Sun) 19:39


角部屋
私のことを気に入ってくれていた先輩から久しぶりにメールが入る。
幻滅した、もう私のことなど好きではない、キライだと書かれてあった。
私のほうはその先輩をどうとも思っておらず、しかし少なからずショックを受けた。
一人暮らしをするアパートの部屋に異変が起こっていることに気付く。
誰かが侵入して部屋の中を荒らすだけ荒らして行くのだ。
そしてその現場に遂に遭遇する。私の部屋から先輩が出てくるところを。
なぜか部屋の中には先輩の弟が残されていた。泣いていた。泣きたいのはこっちだろう。
家族とともに警察に相談する。最初は取り合ってくれなかったが、こと細かに説明するうちに、異常性を感じたのか、気が向いたのか、彼らが動いてくれることとなった。
そしてまた同じように荒らされ、同じように私の部屋のドアを開けて出てくる先輩を警察が取り押さえる。
これがストーカーという生き物かと夢の中で納得する。
2016/08/04 (Thu) 0:15



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