書かなかったのではない、書けなかったのだ。夢を見なかった、わけではない筈だが、目が覚めるともう何も憶えてはいなかった。ただ現実という線の上をあるくだけあるいた。
そして私は柔整理論が担当の先生に、1万1千円が入った封筒を手渡す。
教材費か何か、とにかく学校に係るたいせつなお金だったのは間違いない。
封筒から出すように言われ、鋏で切った。すこし硬い紙の上をざぐざぐと切り込んでいく。もう切り終わる、というところで、あっと声を出す。
中に入った2枚の札ごと切ってしまったことに気付いた。
これではもうお金として受け取れないと顔を顰める先生。それは昔勤めていた上司の顔を思い出す。
破れてもお金はお金、銀行で取り替えてもらえると私は言う。
ねがいは聞き入れられなかった。
それを聞いた私の母が、学校まで抗議しにやって来た。母とはつよいものだ。
結局そしてその金がどうなったのか、私は解らないままだ。