【※重要なお知らせ】Alfoo有料化への移行に伴う重要なお知らせ。
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【眠れぬ乙女 夢寐する麒麟】


ドルチェ
学校の研修のようなもので高級レストランに行く。集団が押し掛けドアの前に並び、入場の前に注文を済まさなければならない。ざっと目を通す。チーズを主張したピザ、ソフトクリームの聳え立つデニッシュパン、青いパスタの入ったサラダ。高級感は伝わってくるがどれも私の好みでなく、なかなか決めることができない。
一緒のテーブルに座る友人はさっさと注文を決めてしまい私を待っている。食べたいわけではないが目についたものを適当にオーダーしてやっと店に入る。
全てのメニューを制覇したという見知らぬ女性が「これが美味しかったよ」と勧めてくれる。決め兼ねているときに教えてほしかった。
空色をしたビールが冷えたワイングラスに入って届く。学生なのにいいのか、と思いながら口にすると甘さを感じた。
一足先に届いた食事を食べ終えた友人は、私を置いてテーブルを後にする。きっと私がもたついたことに不満を抱いていたのだろう。
特に期待もしていない料理が運ばれるのを待って、背もたれに寄りかかる。
昼間から、教員達もアルコールを嗜む。
2015/08/30 (Sun) 12:26



横隔膜
海のなかにいた。
瑠璃、藍、白群、濃紺、群青、碧、蒼、青、あお……。何色とも言い知れぬ深いわたなかを漂う。
目の前を遊泳する赤い魚を捕まえてみたり、見たこともない巨大な生物(それはまるで鮮やかな海象)が大きく翻す着物のような鰭に神秘と畏怖を感じてみたり、潮のなかで営まれる生活を愛する。
私は鰭を持たない。尾を持たない。鱗もない。きっと肺呼吸のままである。吸気すると胸郭は拡大し、呼気すると胸腔は狭まる。肺胞の毛細血管でガス交換が行われる。
海底に会社があり、エレベーターは倉庫へ続いている。エレベーターは縦横無尽に浮遊する。
倉庫から何か持ち出したのかはおもいだせない。或は仕舞いに行ったのか。
気付くと南国のような砂浜に立っており、原住民族が住むような藁の家を見る。
人の気配はない。
そして二足歩行をする。
2015/08/22 (Sat) 14:44


暑中見舞
太陽に刺し殺される。白い肌は灼熱されじりじりと焦げるにおいがする。
空気のぬけたタイヤで自転車を漕ぐ。ガードレール沿いに学生服の青年は、蝉の死骸を軽々と蹴り上げながら帰路につく。死骸はどこへ帰るのだろう。背臥位で空を見上げている、乾涸びた嘗てのからだ。
友人が言う。アルミ製のロードバイクを買ったんだと言う。前輪に反射板をつけてる奴は格好悪いんだぜと教えてくれる。ミーハーさに鼻先がくすぐられる。周囲の流れやセオリーをなぞるようなやり方で、教科書をめくるような偏りで、なにが面白いのかと思う。そんなものページをめくる楽しさでしかない。期間の定められたエンタテインメント。遊びかたを押しつけられるのは御免なのだ。御免なのだ。
繰り返される夏の残骸をかき集める。蝉の骸にも似た。現実で褪せれば褪せるほど記憶のなかでは着色されていく。その残渣を拾い集める代償に、いま若い彼らの肉体から放たれる、忌々しいほど素直な感情に埋め尽くされている。
今はもう我楽多になったものを、今から駄目になっていくものを、再び愛してあげたいと思う。
少女の手だった頃、その手はきっと教本のめくり方やものの在り方を押しつけてきたのだろう。我が儘すらを若さのおもちゃとして選んできたのだろう。純朴さでだれかを痛めつけてきたのだろう。
巡り巡って順番が来たのだ。ものごとは繰り返される。連鎖する。
忘れるのを躊躇いながら、排他を続けるのだろう。
2015/08/02 (Sun) 20:03


発熱物質プロスタグランジン
戻る事のできない過去の産物を見て泣く。
昔の自分はここにはいない。それと同じように昔の誰かもここにはいない。
簡単に繋がれる世界だった。
それだけ簡単に放棄できる世界だったとも言える。
腹の裡をすべて引きずり出したような痛々しい痕跡。それがどんなに毒で、熱かったと憶えていてもこの枯渇を知った今では、それは無毒で、平熱で無機物的な”嘗て”なのである。
便利な時代になった。いつぞやのお気に入りがどれだけ残っているというのだろう。あの頃見かけたその殆どをもう見る事はできない。それが象徴であり、正常な流れなのだ。
大切にしていたものを切り離しながら生きていく。
代償し、目移りしながら生きていく。
身軽になったと思いながらたまに思い出す。振り返る。同じ川の流れのなかに浮かんでいた事を。
2015/07/18 (Sat) 2:57


窮鼠
関東方面から京都に向かう新幹線に乗る。
途中の停車駅で少しばかり時間に余裕があり、一緒に乗っていた友人と一旦下車する。
キヨスクで菓子や飲み物を買い、さあ車内へ戻ろうとすると、めまぐるしい人ごみ。あちこちに掲げられた案内板。迷路のような構内。友人とも逸れ、どこが戻るべきホームか分からなくなってしまった。
発車時刻を迎え、ついに乗車することができなかった。友人と荷物だけを京都へ運ぶのだろう。電光掲示板に「新山口方面」の文字が漂う。その橙色の主張を芒と眺める。

自室でテレビを見てると、ベランダに見知らぬ猫が来訪する。その灰色の毛並みは咥えていた雀をぼとりと取り落とす。
母は毎日雀のために餌を用意する。
猫は私たちに見せるために、その細い牙でその小鳥を捕らえたのだろうか。

テレビがジャックされて映像が固定されている。リモートコントローラーの操作も受け付けない。電源を落とす事さえできずに、映し出された鮮やかな鳥の羽根を見続ける。
2015/06/25 (Thu) 22:28


幽霊
実家の階段を上ろうとしている。白く靄がかったような薄気味悪さに悪寒が走る。踏み出したところで見えない何かに抱き竦められる。透けた腕が私の腰を捕らえている。
愛犬が牙を剥きそれを振り払う。私にピッタリと寄り添う愛犬に心強さを感じながら、また上ろうとする。そしてまた捕らえられるのだ。青白いあの両腕に。
私は階段を上ることが出来ない。しかし上った先に何も無いことを知っている。私はきっとこの掌の正体を知りたいのだ。私を掴み離さない、何度でもやってくるこの腕の本音を知りたいのだ。
私はしかし聴くことが出来ない。ほんとうの事を知りたいと願いながら、知るのが怖い。その青白さに愛されたいがために。愛していたいがために。
独占欲とはどこからくるものなのだろうか。手に入ってしまえば廃れていくだけなのだ、きっと。
愛とは廃用性なのだろう。

小屋の中で作業が行われている。
私と母と兄と姪で、臥床する祖父を取り囲んで、入れ歯をつくっている。
非現実的なスケールで、完成してもきっと祖父の口に入りきらないだろう。
夜中に黙々と作業を進める。
窓からハート形の月が見えた。墨のような黒い雲が流れる。
2015/06/11 (Thu) 20:14


ミントブルー
電車が来る。それに乗る。
朝のとても早い時間だった気がする。遠くまで買い物へ行くのだ。
同行者が居たように思う。男性だったと思う。
目的地へ着くと最初から同伴者などいなかったかのように、ひとりで買い物を始める。
靴が欲しいのだ。夏用のサンダル。
そうしたら好みのサンダルが店頭に飾ってある。私の好きな色だ。
女性の店員がにこやかに試着を進める。素足で履く。
ヒールが低めでとても歩きやすい。
価格を聞くと4000円だと言う。これをくださいと言う。
しかし値段は私の聞き間違いであって、4万4000円なのだと言う。4万8000円から値引きしているという。さすがに靴に払える金額ではない。やむを得ず諦める。
女性の店員はにこやかに、じゃあよければこれを、と、ゴム製のビーチサンダルを手渡してくれた。
厚意に感謝して受け取る。欲しいサンダルは手に入らなかったが、悪い気持ちにはなれなかった。
エレベーターに乗り駅を目指す。いつのまにか同行者が隣に居る。エレベーターは降りてるのか、それとも上っているのか。
電車が来る。それに乗る。
乗り換えのため一旦下車する。電光掲示板を見る。接続の電車はすぐ来るらしい。

先日は自転車で近所のケーキ屋にケーキを買いに行く夢を見た。
結局ケーキは手に入らず非常に悔しい思いをした。
2015/05/23 (Sat) 10:54



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