1分メモ


ひろし
「におうくん、」
「…ん? どうした、眠れんの?」

「あの、おふとん、…おふとん、くっつけてもいいですか?」
「え」

どうする、俺。
2007/02/03 (Sat) 20:38


練習
「におうくん、ちょっと練習につきあってもらえませんか」
「よかよ。じゃ、あっちのコートはいろか」

「あ、そうじゃなくて、ここでいいです」
「なんで?」

「僕がコーラス歌うので、におうくんは真田くんのかわりにメロディーをお願いします」
「はああ? テニスじゃないの?」

「だってほら、もうすぐ本番じゃないですか。ちゃんと練習しておかないと。いいですか、僕からいきますよ、ワン、ツー、スリー、フォー、はいっ、しゃららら、すーてきにキーッス、しゃららら、すーなおにキーッス、はいっ」
「ああああああしたは特別スペシャルデイっ」
「はいはいっ」
「いいい一年いちどのチャンスぅぅ、オーダーリンっ」
「でゅわでゅわ」
「オーダーリン ああああいらびゅー」
「でゅわでゅわ」

「ちょ、ちょっとまってひろし」
「はい?」

「これ、おまえの練習にはなるかもしれんけど、おれは?」
「は、そうですね。じゃあ、交替します? 今度はにおうくんからですよ、はいっ」

「えっ」
「ほら、『しゃららら、すーてきにキーッス』」

「・・・おまえ、意外と神経太いのな・・・」
「なんですか? ほら、ちゃんと練習しましょう!」

「や、ここでっちゅうのもなんだから、どっちかの家に行ってせーへん? な、な、ここではカンベンして。おれ、はずかしか」
「本番で失敗するほうがよっぽどはずかしいですよ! 今から皆さんの前で歌えるようになっておかないで、どうするんですか」
「だってまだ1カ月もあるし」
「その油断が命取りです、さあさあ練習しましょう、でゅわでゅわ」

「おれ、ちょっとひろしがわかんなくなってきた」
「わからなくて結構。僕は完璧主義者なんです、でゅわでゅわ」

「なあ、せめてその、小力のダンスみたいな振り付け、なんとかならん?」
「おや、この横ノリがちょうどいいのに」

「でも出るのCDだし」
「もう、におうくん、ごちゃごちゃうるさい」ばしっ。

「いたっ! ・・・な、なんでこんなことで殴られなあかんの・・・」
「ワン、ツー、スリー、はいっ」

「・・・しゃららら、すーてきにキーッス」(涙目)
「しゃららら、すーなおにキーッス」

「でゅわでゅわ」
「でゅわでゅわ」
  ・
  ・
  ・
  ・

「だいぶ良いですね! じゃあまた明日!」
「え、明日もなの?」

おれ、熱が出そう。

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2月14日発売 真田弦一郎「バレンタイン・キッス」のコーラス隊は28です。買うよ!
2007/01/14 (Sun) 16:26


続・ひろし
「あっ、…に、におうくん!」
「よお、ひろし」

「あ、あ、あの、あの、こないだの…」
「やあ、ありがとな。めっちゃ嬉しかった」

「は、じゃあ、なぞなぞ、わかったんです、か…?」
「ええと…それはその、ご、ごめん」

「わかんなかったんですか? そんな…におうくんのばかっ」
「あああ、うそうそ、ちゃんとわかったとよ!」

「わかってたんですかっ!? に、に、におうくん、わかっててそんな平然と…ば、ばかっ! におうくんなんか、もう、しりませんっ!!」

くるっ! ぱたぱたぱた。

「や、まって、ひろし、まってー」


あーあ、行ってしもた。
どっちにしてもばかばか言われて、おれ、どうしよう。
2006/12/22 (Fri) 16:55


ひろし
「あ、あ、あの、におうくん」
「どうしたん、ひろし、かちかちじゃ」

「こここ、これどうぞ!」
「ん?」

「おたんじょうびプレゼントです、でもって、なぞなぞです! あとでゆっくり考えてください! ヒントは“日本語”、それじゃあ、さよならっ!」
「はああ?」

がさがさごとん。

「…なんじゃろうか、これ…。おんなじアイスクリームばっかり、1個、2個、3個、4個、…10個もありよる。プレゼントなら、なんちゅうか、バリエーションつけるっちゅうか、それが普通じゃのう。いくらひろしでもそのぐらいの知恵はまわるはずじゃ。…ちゅうことは、これがなぞなぞなんじゃなあ。ははっ、おもしろいのう」

俺はそのあと、ためつすがめつ、そのアイスクリームを眺め続けた。何かわかるかと思ってひとつ食べてもみた。味はうまい。というか普通?

でもなんで10個?

1個180mlのアイスが、10個。

ヒント“日本語”?

「…あ」

すごいものをもらってしまった。
俺、ひろしに応えられるだろうか。
とにかく、今は、めっちゃうれしい。
2006/12/05 (Tue) 17:42


仁王くん
仁王くん
ピンポン、ピンポン。がちゃ。

「ひーろしくん、あーそぼ」

仁王くんはときどき、そんなふうに突然あらわれます。
今日も、片手にコンビニの袋をさげて、にこにこしてやってきました。

「仁王くん、こんにちは。今日はどうしたんですか?」
「うん、ひろしの絶対すきなもの買ってきた。あがってもええ?」
「はい、どうぞ。お茶をいれてすぐ行きますから、部屋で待っててください」
「たのしみにしとって」
「期待してます」

仁王くんが持ってきてくれたのは、ミルクティー味のアイスクリームでした。
僕が紅茶好きなのを知っていて、見つけてすぐに買ってきてくれたのです。
ひとつひとつは決して高いものではなかったけれど、僕は仁王くんの気持ちがとてもうれしくて、「期間限定」と書かれたそのアイスをおいしくいただきました。

「仁王くん、これすごくおいしい、ありがとう」
「気に入ったじゃろ、へへ」
「でも、こんなに食べ切れません」
「置いていくけん、あとでまたゆっくり食べればよか」
「じゃあ、お言葉に甘えて。…仁王くんはもう食べないんですか?」
「うん、俺はええよ」

じゃあ、買い物言いつけられとるけん、と言って、仁王くんは長居せずに帰っていきました。外は寒いのに、アイスを食べてすぐに出ていって大丈夫かなあ、と、僕は少し心配になりました。

残りのアイスを冷蔵庫にしまうと、妹が寄ってきて言いました。

「お兄ちゃんの嘘つき」
「え」
「初めて食べたみたいなこと言ってた。うちにもこんなに買ってあるのに」
「聞いてたのかい? だめだよ、人の話を盗み聞きするのは行儀がよくない」
「まーくんが何もってきたのか気になったんだもん」

僕はたしかに嘘をつきました。
期間限定のそのアイスクリームは、じつは家の冷蔵庫にすでにいくつも入っていたのです。

そのあと僕は妹に、嘘には2種類あって、ついてはいけない嘘と、ついても許される嘘があるんだよ、と、教えてやりました。
妹は、わかったような、わからないような顔をしていましたが、彼女もきっと、大切なひとができたら、僕の言ったことをわかってくれると思います。

ありがとう、仁王くん。あなたがくれたアイスクリームは、世界中のどこのアイスとくらべても、ひけをとらないくらいに、甘くて、優しい味がします。
2006/11/10 (Fri) 23:36