「仁王くん、仁王くん」
「うん?」
「昨日、僕、いい経験をしました」
「どうしたん?」
「学校の帰り、買い物を頼まれていたのでスーパーに寄ったんです。お店に入るとき、後ろから来た男の人が僕の持っていたカゴにぶつかって、でも、追い抜いていくときに『すみません』って、ちゃんとあやまってくれたんですよ。後ろ姿しか見えなかったんですけど、実は、そのひと、どこから見ても不良少年のいでたちで…髪もすごい色に染めていて、ズボンなんかこーんなに下げてはいてるんですよ、でも、すごく自然にあやまってくれて、僕も『すみません』ってすぐ言えて、なんだかとても気持ちが良かったんです」
「…そっか」
「人を見かけで判断してはいけないって言いますけど、ほんとうですねえ。…ねえ、仁王くん? あの、なにしてるんですか?」
俺はズボンのポケットに手を突っ込んで、背中を丸め、上目遣いでななめに柳生を、目を細めてにらみつけていた。
「…どこから見ても不良、やっとるんじゃ。悪そうじゃろ。柳生みたいないい子がこんなのとつるんでたらいかん。…ほんとはお前もそう思っとるんじゃなか?」
柳生はそれを聞いて、ぷっ、と吹き出し、ほんとうにおかしそうに、くっくっと腹を抱えて笑い出した。
「に…仁王くん、だめですよそんなことしても」
「なにが」
「仁王くん、悪ぶって見せてもほんとうはすごく優しいじゃないですか。今さら不良ぶってもちっともこわくありません」
「え」
「さ、帰りましょう? 不良少年さん」
柳生が終始くすくすと笑っているので、つられて俺も半笑いになった。俺ってもしかして柳生の前ですごくカッコ悪いのかもしれない。がっくりだ。