チャンカーはマリオン


 ●●●  東京
北九州を立ち大阪で2晩過ごし東京へ移動。今ではマリオンと一緒でも一人分の旅費で済む。大阪では古い友人宅に泊めてもらいマリオンを喪った悲しみを聞いてもらうが、一人になる時間には、どうしてもマリオンと過ごした新大阪近辺をウロウロと記憶をたぐり、マリオンの思いを拾い集めてしまった。しかし東京にはマリオンとの想い出は、北欧旅行での上野駅しか想い出は無く、比較的楽だろうと思っていた。東京では珊内のユースホステルの仲間がマリオンを偲ぶため 僕を励ますために20人近くが集まってくれた。新宿にホテルまで取ってもらい、ホテル近くの居酒屋で宴を囲んだ。それぞれがマリオンに語りかけてくれて、さぞマリオンも楽しんでくれただろう。もういくらでも酔っぱらっていいぞとマリオンにもビールを添膳する。二次会は何処にすると聞かれ、マリオンが好きだったが僕が苦手でほとんど連れて行けなかったカラオケに行くように頼み、僕は歌わなかったが、マリオンの好きだった中森アキ菜の曲をみんなに歌ってもらう。僕はマリオンとの初デートでカラオケに連れて行かれアキ菜を散々聴かされた事を思い出して涙が溢れる。集まってくれた
人の中にはマリオンと面識が無い人も居るが、それでも歌って追悼してくれた。 この集まりが限り無く温かく、僕とマリオンを心から悼んでくれた事が嬉しくて、また涙が出る。 マリオン、こんなにみんなに愛されてるぞ!よかったなぁ。僕の中で悲しみと感謝と喜びが入り乱れ、涙が止まらなくなった。カラオケの宴も終わり解散し、僕はホテルですぐ寝てしまうが、夜中1時に目覚めてしまい眠れないでいる。
しかし どこまでも底抜けに優しい友に、、、感謝あるのみ。 今夜の夜行寝台・北斗星に果たして僕は独りで乗れるのだろうか?
2005/06/27 (Mon) 5:27

 ●●●  1週間
1週間
マリオンが逝って1週間経った。もう1週間。まだ1週間。僕の移動距離からすると、随分前の出来事に思えるが、先週の木曜昼にはマリオンは呼吸をしていて夜に僕の腕の中で息を引き取った。それから1週後の昨日、僕は子供の頃歩いて渡った記憶のある若戸大橋を見上げる場所でボンヤリしていた。どことなくマリオンを連れて行きたかったニューヨーク・ブルックリンブリッジのブルックリン側に立っているような気分で橋を見上げ「こんな感じだぞ」とマリオンに語りかけた。そして夕方、博多に転勤中の友人と会い飲んだ。居酒屋でマリオンが息を引き取った時刻を気にしながら飲んだ。その時刻が迫るとマリオンの携帯用お骨を握って飲んだ。蘇る記憶を恐れながら飲んだ。涙が出そうになるのを堪え話題をそらして飲んだ。もちろんテーブルに置いたマリオンの携帯用お骨の前にジョッキを供えてである。マリオンにとっても辛い瞬間だっただろうからマリオンにも酔ってもらいたかったからだ。でも、臨終の後のマリオンは開放され自由になったと僕は信じている。 マリオンの遺体が病院から出たくらいの時間、僕等も居酒屋を出た。すると店員が「お客さん、忘れ物です!」とマリオンの携帯用お骨を持ってきた。あっちゃ〜マリオンを忘れていた!!!!!なんちゅーボンクラなんだ俺は!! 少々酔っていたとは言え自分が情けなく思え、エレベーターの中でマリオンに謝り倒した。そしてその夜 友人は会ったのが久々だった事もあり、この日の僕を一人にするのが気の毒だと思ったのだろうかサウナで夜明かしすることになった。夜中3時過ぎまでサウナでまた飲み、朝6時半には起きて二人して酒の匂いをさせて小倉駅に向かう。友人は新幹線で博多へ出勤し、僕は2駅隣にある実家に帰ってきた。なんとか恐怖の一日を乗り切ったのだった。
2005/06/24 (Fri) 8:30

 ●●●  マリオン、吟の実家へ里帰り
マリオン、吟の実家へ里帰り
まだまだ立ち直るには早すぎる。どう時間を過ごすか、働かない頭を抱え予報では最高気温31度の大阪で打ちひしがれていた。札幌でマリオンの携帯用お骨は薬の空き瓶に入れていたのが心苦しかったので、ハンズでいい感じの瓶とラベンダーのポプリとちうどいい袋を購入して近場の公園で入れ替えた。自分で言うのもなんだが、とってもいい感じになった。そしてマリオンが大阪から北海道に引き上げる際に乗りたがっていたトワイライトエキスプレスのA個室寝台を取ろうと駅に行ったが7月20日まで満席状態。取りあえず唯一空いていた27日のトワイライトエキスプレスB個室を取った。しかしB個室は閉所恐怖症の僕には耐えられない狭さだった覚えがあり、当日のキャンセルでA個室が取れる可能性にかけてB個室のキープ。マリオンの願いを叶えてあげたかったが、世の中うまき行かないものだ。昼過ぎの新幹線で小倉に到着。すぐに実家に行きマリオンの携帯お骨を仏壇に乗せようとしたが、母が49日を過ぎないと乗せてはダメなのだと言い、仕方なく横に置いた。これで大村家の先祖に引き合わせることが出来たと思う。あくまで引き合わせるだけでココに置き去るつもりはない。マリオンはしっかりと僕が携え連れ歩くのだ。  トワイライトエキスプレスA個室が取れなかったことが気にかかり、ふと思いついたのが、上野からの北斗星。今回東京の友人達からもずいぶん世話になったのでお礼に回るのも必然と感じたので、明日北斗星のチケットが取れたらトワイライトをキャンセルして大阪→札幌コースを諦め東京経由で北海道へ帰る道を考えた。 昨日から僕が涙を流すことは減ったが、心が癒えているわけではない。移動や疲労から心が麻痺しているのが分かる。薄皮一枚剥がそうものなら一気に崩れてしまうだろう。だから今は麻痺した心のままで動こうと思うのだ。 
2005/06/20 (Mon) 22:53

 ●●●  時間の逆流
時間の逆流
札幌のウィークリーマンションに一人で居ると苦しく悲しく情けなくなる。今のウィークリーマンションはマリオンが息を引き取ったホスピスに近く、昨日も今日もホスピスに脚を運んでしまった。昨日はマリオンの薬が大量に残っていたので処分を、今日はマリオンのストーマの残ったパウチ・フランジを提供するためという理由をこじつけホスピスへ行ったのだ。ホスピスへ向かい歩いているとマリオンに会えると錯覚してしまう。しかしマリオンが居た病室にはすでに次なる悲劇を待つ患者さんが入っていた。なんともやりきれない。せめてこの患者さんが少しでも長く元マリオンの病室で過ごせる事を祈る。 昨日 大阪の友人が一人で居るのは辛いだろうと札幌まで訪ねてくれることになっていたが、友人の奥さんが高熱を出して来れなくなった。交通費を出すから大阪に来てはどうだと言ってくれていたのだが、今の僕にはどうするかの決断力が無くボンヤリとホスピスのデイルームに座りマリオンが最後に見た外の景色を眺めていた。景色は涙で歪んでいた。その時マリオンの臨終に立ち会ってくれたナースさんが僕を見つけ声をかけてくれしばらくマリオンの葬儀の話をした。ナースさんはマリオンの葬儀の話に親身に耳をかしてくれ、メッセージを書き溜めた棺には痛く感動してくれた。話をしていると小さな何かが沸き起こり、急遽大阪に行く事を決めて急いでホスピスを出てウィークリーマンションに戻りバッグに荷物を詰めこんで空港に急いだ。飛行機の座席は1席だけ空いていたので即乗って大阪に到着。2週間前僕とマリオンとマリオン姉を大阪から舞鶴港まで車で送ってくれた友人とマリオンのお骨からわずかに取りだし持ち歩いているマリオンの骨入り小瓶を挟んで、ビールもマリオンと僕は一緒に飲む。煙草もマリオン用に火をつけ3人で飯を食った。宿は新大阪のホテルに取った。その宿は大阪でマリオンと滞在したウィークリーマンションのすぐ近くで部屋からそのウィークリーマンション11階の元我部屋の玄関扉が見える。何気なく外を歩くと2週間前とまったく変わらない路地やコンビニや景色があるのだが、しかし僕の現実は人生最大と思われる落胆を背負って歩いているのだ。 なのにそのウィークリーマンションの11階の部屋に行けば今もマリオンがベッドでスヤスヤと寝ているような気になり、時間を遡れるのではという気がしてくるのだった。その段階で僕はまだマリオンの死を受け入れられない自分を知った。 ホスピスのナースさんが言っていた。「奥さんを亡くしたのだから悲しいのは当たり前です。悲しんでください」マリオンに付き添っていた時の僕の悲しみと不安はマリオンの死に対してであったが、マリオンはもう死なない。だから僕の意識でこの悲しみは解決できるのだろう。 今困った事は、急いで札幌を出てきたので眼鏡と緑内障の目薬を忘れてきたのでだった。 明日は北九州の実家に行こう。
2005/06/20 (Mon) 3:40

 ●●●  魂
魂
2005年6月18日 火葬。形としてのマリオンは消えてしまいました。骨になったマリオン。でもその骨がマリオンではないのですね。その骨はマリオンが残した物であって、マリオンは自分の体の容積を越えて巨大な広がりの魂として自由を得たのでしょう。 もう死に対する恐怖や心配は無い。この世の制限を受けないまったく自由な存在として進化したのですよね。今 問題は窮屈なこの世に残った僕のあり方、居場所、存在理由・価値、、、、どう考えても見つけられません。マリオンの存在は偉大すぎました。幸い僕の休みは8月8日まであります。 マリオンを失った珊内に戻るまでに気持ちの整理をつけなければなりません。8月8日までの時間が長いのか短いのか。取りあえず今日をどう生きるか。
2005/06/19 (Sun) 13:05

 ●●●  納棺その2
納棺その2
いよいよ明日は荼毘。今 棺で眠っているマリオンは本当に眠っているようで今にも起きてきそう。それを焼いていいのだろうかと不安と悲しみが交錯する。今まで病院で寝ているところを沢山見つづけた僕には寝ているマリオン寝顔のマリオンは見慣れていて、その顔はいずれ目覚めると脳に刻まれている。だから また目覚めるのだろうという安心感を心の何処かで抱いているのだが、現実は焼かれて骨になってしまうのだ。そもそもこの通夜の喪主は僕なのだが、まるで他人事のように感じ、棺で寝ているのはマリオン以外のマリオンに似た他人と感じようとしている自分がいたりする。そして日常で「あれはどうだったかな?何処にあったかな?」という疑問が沸いても「あぁ、家に帰ってマリオンに聞けばいいか」と思う自分も居る。 棺の中のマリオンを本当のマリオンと感じていないのだ。蝋人形か何かと錯覚しようとしているのだ。 だが時間の流れは刻一刻とマリオンを骨と灰とにしようと動いている。この恐怖が現実から逃避させる。 今夜も音を絶やさないようにCDをかけつづける。3晩目の徹夜になる。
最後なのでマリオンの棺の中の顔を皆さんに拝んでいただきたい。見納めである。明日のこの時間にはマリオンの実態は無い。
2005/06/18 (Sat) 0:46

 ●●●  納棺
納棺
僕は今日でまる2日寝ていないのだが、まったく平気だ。これは厳しすぎる現実を逃避するためにアドレナリンが分泌しているからと思える。 午前中 葬儀屋に連れ立って厚別区役所に行き死亡届と火葬許可を取る。火葬許可には「死体火葬許可」と書かれてあった。死体なのだ。死体。マリオンを死体と認識するには僕の精神力は弱すぎるので死体の文字にはなるべく目をやらないようにした。厚別区役所から僕のウィークリーマンションにマリオン用のCDを取りに寄る。昨夜から音が絶えないよに流しつづけたCDにレパートリーの増えた。夕方になって一人の女性スタッフが皆を前に儀式のようにマリオンに綿を詰めたり化粧をする。女性スタッフが喪主の方奥さんの手が冷たくなっています握ってあげてくださいと言うので僕は必死に握り暖める。たしかに氷のように冷たく固い。そしてメイクを始める前に僕は待ったをかけマリオンに最後の口付けをした。メイクは流石にプロ。凄い。本当にキレイに仕上がった。その後納棺。狭苦しい棺桶にマリオンが入れられる。閉所恐怖症の僕には耐えられない狭さだ。白い布の棺。その横面に僕は大きくマジックで「俺のチャンカーはマリオン」と書いた。それを期に皆で思いを書きこんでもらう。通夜に来る人来る人皆に書きこんでもらうととても温かな棺になった。それぞれにマリオンに対する思いが溢れている。見ていて中に入っているマリオンが羨ましくなるほどだった。そして僕も嬉しかった。
2005/06/18 (Sat) 0:27

 ●●●  マリオンの通夜
17日18時より札幌白石区北郷8条7丁目ファミリーホール白石にて執り行います。宗教色の無い音楽葬にしました。普段着で結構ですので、お時間取れましたら見送って頂けたら幸いです。 会場の電話番号は011‐871‐4949 喪主 大村吟弘
2005/06/17 (Fri) 4:34

 ●●●  さよならマリオン#2
マリオンは大阪へ行く際、何故か白のワンピースを持って行くと言った。僕はこんな物着る機会は無いと言ったがマリオンは持って行くと言い張った。まるでこの日に着せて欲しかったかのように。だから僕はマリオンがホスピスに入った日にクリーニングに出していたのだ。 そして今だから言うが、マリオンは昔タロット占いをやっていて、かなり当たったらしい。その時自分は35歳で死ぬと出てたらしく、去年の手術入院の時からチョクチョク口にしてたが、先月大阪で36歳を迎え僕は内心ホッとしていた。マリオンが僕と一緒になった事で変えられた運命は、たったの25日の延命だったのか。
マリオンが息を引き取りナースさんが死化粧をしてくれた。そして白のワンピースに今日僕が買った黒のブラウスも着せてくれた。 マリオンは見た目にいつものように寝てるだけに見えるが呼吸をしていない。化粧をしたマリオンに何度もキスをする。11時前マリオンは病院から小さな斎場に移される。僕マリオンの足を摩り続けた。斎場ではマリオン姉・マリオン父と僕の三人が明日(今日)の通夜を待つ。顔に被せてある白布を僕は取りマリオンの顔を眺める。冷たくなった唇に何度かキスをする。入院中にはなかなか見れなかった笑顔でマリオンは寝ている。
2005/06/17 (Fri) 2:04

 ●●●  さよならマリオン#1
マリオン父と一緒に付き添ってなんとか朝を迎えた16日。マリオンの血圧は80を上がったり下がったり。昏睡は続いていた。一睡もできなかった僕は昼前から4時間ほどウィークリーマンションに戻り睡眠を取り、再びマリオンの元へ。マリオンの息遣いが異常に荒い。それが気になりながらも尿パッドが無くなりかけてたのでダイエーまで買いに出かけた。ふと5月22日マリオンの誕生日に何もプレゼントして無いのに気付きマリオン好みの黒のブラウスも買って病室に戻る。ナースさんから今夜が危ないと言われる。僕は急いでマリオンに着せるための白のワンピースを取りにウィークリーマンションへ走り戻る。病室では激しく息づくマリオン。ナースさんは声をかけてやってくれと言う。すぐに横に寄り手を取り「俺と結婚してくれてありがとう。怖くないよ、サイレンが居るから遊んでやって」虚しくも心から言葉をかけた。僕がマリオンの肩を抱き話し続けた。マリオンの激しい呼吸は次第に静かになっていく。そして止まった。折しも枕元ではマリオンの大好きなTheCureのHowBeautifulYouAreが流れてた。マリオンは曲を選んかのようだった。しかししば
らくして苦しそうに一息。また一息。また一息。8時10分頃が最後の一息だった。僕の腕で息を引き取った。
2005/06/17 (Fri) 1:41

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