【※重要なお知らせ】Alfoo有料化への移行に伴う重要なお知らせ。
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☆今日のつぶやき☆


The novel
時計台のある賃貸マンションの5階。
そのY号室でKは一人暮らしをしている。
とはいえ、隣のZ号室に住むM夫妻とは、家族のような付き合いで、夕餉時は毎日のようにZ号室に入り浸っている。
「家族のような付き合い」というより、むしろ「居候」と言った方が適切かもしれない。
毎晩飲み物はビール数本と芋焼酎を数杯。
酒の肴は、極めて好き嫌いの激しいM氏が食べることのできる限られた料理と、それよりは遥にバリエーションの豊富なご近所話!!

「Mさん、最近家の隣のX号室に引っ越してきた人見たこと有る??」
「いぃや! そういやぁ全然見ねぇなー」
「私もまだお会いしてないけどKちゃんのところには挨拶くらい有ったでしょう??」
「いいや! 越して来てもう1週間にもなるけど全然なんだよね!! だからなんとなく不安でね!!」
「近頃の若いヤツらは何を考えてるかわかんねぇからな〜!!」
「そうよ、Kちゃんも家に居る時でも鍵はかけといた方が良いわよ!!」
「しかもね、夜遅くまで大きな音で音楽をかけるし、部屋から漏れ出すタバコの煙がエレベーターホール中に充満してるし、
玄関から流れ込んでくる空気がほんとにもう尋常じゃないんだ!! ありゃ絶対普通じゃないよ!!」
「管理会社に一言言っといた方が良いかもしれねぇぞ」
「そうだね、あんまりだったらそうするよ」
「おっ! 優香ちゃんのCMだ〜!!」
「もうまったくあんたは優香優香って〜!!」
こんなたわいもない痴話喧嘩にあきれたり笑ったり、Kにとっては全く力を入れずに過ごせる居心地の良い空間なのだ。

或夜のこと。
いつものようにZ号室から帰ったKは、X号室から聞こえてくる怒鳴り声に驚いて耳を澄ませた。
会話の詳細は聞き取れなかったが、男女が激しく言い争う声だった。
しかしそんなものに気を取られていると眠れなくなると思ったKは、お気に入りの男性ジャズボーカリストのCDを流し、その優しい声とフリューゲルホンの音色に、いつの間にか静かな眠りへと誘われていった。

どたん ばたん がたん!!
「あんたが言ったことでしょう!!」
初めは夢だと思った。
しかし決して爽やかとは言えない強引な覚醒を呪う間もなく、それがX号室から聞こえていることをKは確信した。
時計を見ると深夜2時だった。
そして断続的に聞こえてくる罵声は明け方まで続いた。
「またか・・・・・」
夜が明けて、隣室を静寂が支配してからも、Kは言い知れぬ不安と末恐ろしさに悩まされていた。

実は以前住んでいた町でも、Kはアパートの隣室に越して来た若いカップルに悩まされた経験があるのだ。
しかもその時は、管理していた不動産屋に助けを求めると、こともあろうにその不動産屋は、隣室の住人に対して
「隣のKさんは神経質な人だから気をつけた方が良いよ」と宣ったという!!
おんぼろアパートの薄い壁1枚隔てた隣室に屯して、毎夜毎夜朝までゲームに興じてワイワイ騒ぐ無職の若者達に、Kは小さな殺意のような感情まで覚えたことさえあったのだ。

Kは悩んだ末、マンションの管理会社に電話を入れた。
ところが驚いたことに、X号室の住人は若者ではなく、しかも男性は有名企業の中間管理職を務めているとのこと!!
しかしその情報を聞いたKは、なぜか少し不安が薄らいだ気がした。

「しっかしそんな立場のヤツが、隣のKちゃんちに引っ越しの挨拶もせずに、しかも夜中中騒いだりするなんてなー!!」
「なんかあまり人に知られたくない理由でも有るのかしらねー!!」
「でもまぁ得体が知れないっていう状況じゃなくなったから僕としては少しほっとしたけどね!!」
「あっ! 優香だ〜!!」
「もうまったくあんたは〜!!」

それから数日が過ぎた昨夜のこと。
「Kちゃん、初めてX号室の男を見たぞ! 痩せぎすなヤツで、なんか伏し目がちで挨拶もせずに部屋に入った」
「あっそう! で? 女の人は??」
「いや、男1人だった!!」
「あっそう!」
もうそれはKにとってそれほど興味深い話じゃなかったし、ましてやこの後、大変な事態になることなど、その時知るよしもなかった。

自室に戻ったのは10時前。
毎週土曜日の10時から地元民放ラジオでOAされてる番組を聞きながら、いつの間にか眠りに落ちていた。

ぴんぽん ぴんぽん ぴんぽん ・・・・・
延々と連打されるドアチャイムに正に叩き起こされた。
丁度午前2時半だった。
初めは自室のものかと錯覚したが、冷静に聞いてみるとそれは隣のX号室のものだった。
そのうちドアを激しく叩いたり引っぱったり!!
ぴんぽん ぴんぽん ぴんぽん どんどんどんどん がたがたがた・・・・・
10分ほど我慢していたKだったが、たまりかねて玄関を出た。
「中に何方かいらっしゃるんですか??」
「ええ居ます。 居るのに開けないんです。」
意外にもそれは女の声だった。
「とにかくこんな深夜にそんなことをしたらみんなに迷惑でしょう!」
「開けない方が悪いんでしょう!!」
Kは絶句して部屋に戻った。
そしてM氏に電話をすると、彼も顔を出して「寝れないから静かにしてください」と強い口調で言った。
「私も困ってるんです!!」
折り返し電話をしてきたM氏は「管理会社に電話するしかないだろう」と言った。
「こら〜! 開けろ〜! 開けないか〜!!」
管理会社に電話をして到着を待つ間も、彼女は激しい怒号と共に、ドアチャイムを押し続け、ドアを叩いたり蹴ったりしていた。
Kは彼女を落ち着かせるために自室に招いて話を聞いてやろうかとも考えたが、とてもKの手には負えそうにない。
そのうち管理会社の人が警官を伴って到着した。
「こんなことをしたらみんなに迷惑でしょう」
「私だってこんなことしたくないけどドアを開けないんだから仕方無いでしょう!」
そんなばかばかしい返事を返し続ける彼女を、気長に静かに諭し続ける警察官。
そして3時半を過ぎた頃、漸く落ち着いた彼女を連行して警官達は帰っていった。

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静かな夜を返せ〜(○`ε´○)
2004/05/30 (Sun) 9:34


【松ぼっち】 大変な出来事なのだけれど・・短編小説を読んでいるようです。サスペンス物のようで一気に読んでしまいました。keiさんにとっては、災難でしたね。
2005/06/07 (Tue) 0:38



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