浮竹は、後ろに飛び退いた。戦いは続いている。藍染の負傷、剣八の参戦により、圧倒的に不利というわけではなくなった、と浮竹は見ている。しかし、これだけ隊長格がいるにも関わらず、決着はつかない。
市丸はまだ詠唱を続けている。
煙る場を離れて眺め、浮竹は今さらながら不思議に思う。どうしてこうなったのか。戦いはもう仕方ない。ただ、この世界はどこへ向かおうとしているのだろう。
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no title [side B] |
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行方
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浮竹は、後ろに飛び退いた。戦いは続いている。藍染の負傷、剣八の参戦により、圧倒的に不利というわけではなくなった、と浮竹は見ている。しかし、これだけ隊長格がいるにも関わらず、決着はつかない。
市丸はまだ詠唱を続けている。 煙る場を離れて眺め、浮竹は今さらながら不思議に思う。どうしてこうなったのか。戦いはもう仕方ない。ただ、この世界はどこへ向かおうとしているのだろう。 |
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2010/05/15 (Sat)
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痛み、温い味、息苦しさは全てまだ
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霊圧が増えた。その重圧に骨が軋む。雛森は息を吐く。喉に絡む何かを吐きだし、その赤い色を確認する。喉の奥が切れたのか。悲鳴をあげてたっけ。それとも単に口の中を噛み切ったのか。雛森は立ち上がる。一歩、踏み出す。
口の中が粘っこい。鉄の味。温い。どこかが痛い。 そう、まだ痛い。雛森は顔を上げる。痛い。まだ痛みを感じられる。 この傷に、この状況に、この思いに。 幾人もの霊圧で場は煙ったように視界が悪い。それともこれは目が霞んでいるのか。雛森には区別できない。もう、この戦いは雛森の霊力の及ぶところではなかった。それでも雛森は歩を進める。刀はもう持ち上げられない。走ることも、飛ぶこともできない。 それでも、まだ進める。 煙る向こうにやちるが立っている。まだ何か詠唱している市丸と、庇うように立つ乱菊を背に、荒れ狂う嵐を堰き止めるようにやちるはそこにいた。雛森は口の中で呪を唱える。左手で印を結んだ。一歩踏み締めると、そこに結界が展開する。一歩、もう一歩、雛森はやちるの横に並ぶ。そこで膝が崩れ落ちたが、雛森は左手を払った。ぱきぱきと軽い音がして、やちるの両脇に防壁が展開される。 「ももちゃん、平気?」 やちるが囁くように訊いた。視線は向けない。 「うん……少ししか楽にならないけど」 雛森は前を向く。重く暗い霊圧が場の奥にあった。 「でも、こうしたかったから。こうしないと、進めないから」 潰されないように顔を上げる。目を背けずにこの嵐を見る。 「ありがとう、ももちゃん」 やちるが柔らかに言った。 |
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2010/05/02 (Sun)
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何が最善かなど誰も知らない、知ろうともしない
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場が動いた。
京楽は霊圧で煙る場に飛び込むと、剣八の溢れ出るそれに紛れて藍染の背後に回る。剣八が斬りかかる音がする。と同時に京楽は藍染の背に双剣を突き刺す。いや、突き刺そうとした。 藍染が剣八の剣を下に払う。その反動で宙返りのように京楽の剣を避けた。 逆様の藍染と目が合う。 自分の切っ先が剣八の目に向かっている。 京楽は剣を咄嗟に上に向けると、一歩を踏みとどまった。その勢いを踏ん張って足に溜めると、上に飛ぶ。体勢を崩して目の前にあった剣八の肩に足をかけ、さらに飛んだ。 「おいっ!」 「ごめんよ。肩を借りたよ」 剣八の苛立った声を背に、京楽は藍染を追う。霊圧で煙る場でも、はっきりとわかる、際立った暗い霊圧。 「京楽」 藍染はこちらを見て微笑んでいた。 「私は地獄行きらしいよ」 空中で踏みとどまり、藍染がこちらに剣を向ける。振り下ろされる剣を受け止める格好で、京楽もまた笑ってみせる。 「僕も行ったことがない、秘境だよ」 「そうだな」 双剣で受け止める剣は、片腕とは思えないほどに重い。その重さをそのまま降ろす要領で、京楽は藍染を下に投げる。 「……忙しいね、全く」 緩やかに笑って藍染が落ちる。霊圧を噴き出して、剣八が飛び出してくるのが見えた。 |
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2010/01/24 (Sun)
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あなたのよろこびがわたしのよろこび
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到着した場は膠着していた。誰も動かない。屋根に落ちた黒々とした影が縫い付けられたように、静止している。やちるは視線を巡らせる。相対する藍染とギン。片腕。血塗れ。赤い紋様。その間に、ギンを庇うように立つ乱菊。赤い。藍染を挟む位置に、浮竹、京楽、日番谷。少し離れた場所で刀を構える桃。紙のような白い顔。
やちるは微笑むと剣八に囁く。藍染さん、強いね。 「じゃあ、やるか」 嬉々とした、鬼気とした声。火柱のような霊圧が溢れるが、剣八は隠そうともしない。ざわりと揺れる。全員が反応していた。 やちるは剣八の肩から飛び出す。その反動を脚に溜めるように膝を曲げると、剣八が屋根を蹴って一気に藍染へ斬り掛かる。それを横目で確認しつつ、やちるは乱菊の前に向かう。乱菊は藍染から目を離さない。藍染がちらりとこちらに視線を向けた。冷笑。そのまま剣八へ視線が移る前に、やちるはにっこりと笑ってみせる。剣八が振り下ろす刀を、藍染が片腕で受け止める。激しい金属音。 「やちる」 乱菊の硬い声。やちるは藍染と剣八から目を離さずに応える。 「らんちゃん、休んでいいよ」 できるわけがないことを知りつつ、やちるは言う。背後で、ギンが笑う声が聞こえた。 「ボクも一休みしてええかなあ。やちるちゃん」 「ギンちゃんはだめだよ。まだ何かしてるじゃん」 そうやねえ。そう呟いてくすくす笑うギンと、気配を硬くする乱菊を感じて、やちるは大人びた笑みを浮かべた。ややこしいなあ、二人は。煙るような霊圧の向こうで戦う剣八の気配にやちるは思う。世界はもっと分かりやすいのに。 日番谷、浮竹、京楽が動いた。乱戦が再開される。やちるは背の二人を庇うように両腕を広げる。 |
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2009/12/10 (Thu)
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幸福感
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幸せ、というものを自分は知らない。
藍染はそう認識している。正確には『幸せを実感したことがない』ということだろうが、感じているか否かも判断できないのだから、知らない、がしっくりする。 人々が語る幸福感に、藍染は隔たりを感じずにはいられなかった。世界との隔たり。冷めている感情。 世界は、人々は、平坦で抑揚がなく、藍染はすぐに飽きた。全ては弱く儚く移ろうものであり、『信用に足るもの』ではなかった。 満たされることはなかった。 生きる喜びを感じることはなかった。 藍染は空を見上げる。 闇の色。消滅の気配に藍染は笑う。 唯一の確実なものを、お前は私に与えようとするのか。 目線を戻すと、ギンは笑っていた。 薄い笑みで、ただ、無表情に。 |
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2009/11/11 (Wed)
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