君は、常にそうだった。浮竹と目が合って、藍染は、笑う自分の口元が歪むのを感じた。浮竹は揺るぎない眼で自分を見ている。睨むのではなく、ただ真直ぐに。
闇色の思考など、よぎったこともないような顔で。
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no title [side B] |
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恵まれた者
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君は、常にそうだった。浮竹と目が合って、藍染は、笑う自分の口元が歪むのを感じた。浮竹は揺るぎない眼で自分を見ている。睨むのではなく、ただ真直ぐに。
闇色の思考など、よぎったこともないような顔で。 |
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2008/11/10 (Mon)
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会話の底
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「……首、切り落とそぉ思うたんやけどなぁ」
市丸が呟く低い声が聞こえた。ばた、ばた、と血液が落ちる音に紛れずに、その言葉は呪咀のように確かに響いた。日番谷は静かに息を吐く。呼吸を整える。市丸の口調が雄弁に語っている。もう、機会は。 あるか、ないか。 浮竹が構えを解くと、一歩前に出た。 「藍染」 「何だい。浮竹」 「続けるのか」 低く、落ち着いた、深い声。 藍染が笑う。 「どちらかが滅びるまで、殺し合う他に何がある?」 「そうか」 浮竹が頷く。 「ならば、仕方ないな」 声に動揺はみられない。日番谷はちらりと浮竹を見上げる。血管が透けた白い肌は、ますます青白い。しかし表情の沈んだ横顔は精悍であり、厳格であり、浮竹の覚悟を思って日番谷は言葉を飲み込む。 |
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2008/10/30 (Thu)
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赤
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一切の音が消えた。
雛森は動けなかった。目の前の日番谷も、斜め前の京楽も、いつのまにかこの場にいた浮竹も、斬り掛かる姿勢のまま、動きを止めていた。これは一瞬のことなのかもしれない。一滴の血の飛沫が空中に描く軌跡すら見えている。 だが、雛森には気が遠くなるほどの時間だった。 藍染が手刀で自らの右腕を肩から切り落とした。強引に縛道と市丸の刀による束縛を解き、藍染の表情がかわる。ふいに自由になった右腕がずるりとずれた。力を失った右手が、市丸を貫いたままの刀の柄をすべる。右肩に突き刺さったままの市丸の刀が、右腕の重みで切っ先を下に向けようとする。 藍染が左手を伸ばした。 市丸が身を後ろに引いてそれぞれの刀を引き抜こうとする。 乱菊が割り込むように体を屈め、脚をあげる。 三人同時に、散開した。 ごとりと重い音がして、残された右腕が屋根瓦に落ちた。遅れて、飛沫の落ちる音。日番谷が振り下ろした刀を切り返し、藍染を追う。藍染を蹴った反動でその場から離れた乱菊が着地するやいなや瞬歩で移動し、市丸と藍染の間に入る。 二人は睨み合っていた。 互いに薄い笑みを浮かべ、笑わない眼で睨み合う。視線を外すことなく藍染は唇を動かした。 「……」 展開する防壁。 日番谷が足を止める。 浮竹と京楽がその横に並んだ。 音が途切れた。 一瞬だったのか、永劫だったのか、雛森には分からない。ただ、再び聞こえだした、赤い血が塊のように落ちて跳ね散る音がひどく耳障りで、目だけは見開いたまま、震える手で耳を塞いだ。 |
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2008/10/23 (Thu)
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矛盾、あるいは無自覚の目的
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風に吹き払われたように、戦闘の場を覆っていた霊圧の靄が晴れた。
目の前の光景に、浮竹は足を止める。そんな猶予などない状況で、浮竹はそれを理解するために一瞬を要した。喉の奥がいらりとする。 場の中央には、藍染がいた。 血も凍るような笑みで相手の胸ぐらを左手で掴み、深々と刀を突き刺した。左脇腹を貫通し背中から突き出た切っ先から、少し遅れて赤い血が滴り落ちる。黒い瓦が更に暗く染まる。白い背中も見る間に赤く染まる。 白い、影が。 赤く。 あれは。 浮竹の視界が狭くなる。目を凝らす。あの影は。 ひょろりと細い影が二つに折れて体を沈めた、同時に、左腕を挙げる。空の手のひらに、縛道の印が展開する。藍染が笑みを歪めた。肩が後ろに反ろうと形を変える。刀を引き抜く形に。 反射的に浮竹は場の中央に飛び込もうとした。その横を金色が一歩先にすり抜ける。松本。そう認識するのと同時に、展開する縛道が彼自身の左半身と藍染の右半身を、刀もまとめて絡め捕えるさまを見る。 「乱菊」 市丸の声が聞こえた。 松本が藍染に斬り掛かる。藍染が左半身を反らして避ける。その位置を読んでいたように、低く腰を落とした市丸の右手から刀が伸びた。 肉が破れ、骨が砕け。 千切れる音。 藍染が左手で刀の軌道を変え、右肩を貫かれていた。その後ろに日番谷の姿が既にあった。藍染の、刀に添えられた手が光る。 「待て! 藍染!」 斬り掛かる体勢で浮竹は叫ぶ。叫んで、顔をしかめる。 藍染と目が合った。 酷く薄い笑み。 再び、嫌な音がした。 |
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2008/10/17 (Fri)
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霧の中
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市丸の気配が離れた、と同時に松本が藍染に斬り掛かる影が見えた。硬い音。反対方向にその影も霊圧の霧に消える。
やれやれ。 京楽は一人で肩を竦める。敵味方とは思えない、絶妙な息の合い方だ。入る隙がない。彼らは共に戦ったことはなかったと思ったが、と京楽は記憶を掘り起こす。そして頭を振る。もっと、前だ。それは、そうか。 目の前を白い影がよぎり、次の瞬間には背後に気配があった。 「どうしたのかい、市丸」 「つまらんなあ。びっくりせぇへんね」 声は笑みを含んでいて、つられて京楽は微笑む。 「もう十分に驚かされたよ」 背中で市丸が小さく笑う。 「……まだまだ、これからや」 気配が消える。京楽は微笑みを消して、息を吐く。 轟音。 飛び込んできた藍染の刀を受け止め、京楽は再び微笑みを浮かべた。 |
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2008/10/03 (Fri)
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