視界は濁流のように入り混じる霊圧で、一間先もよく見えない。だというのに、と藍染は笑う。だというのに、ギンの様子は見えているように分かる。
藍染は、この場にいる全員の位置も動きも把握できていた。だが、ギンの姿は殊更はっきりと捉えられる。殺意が強いからか。藍染は思う。
殺意。
どちらの。
斜め後ろから研ぎ澄まされた切っ先を感じて身を翻す。脇腹を伸びてきた刀が掠めた。
「見えてはるやろ」
ギンの低い声が霞の奥から響く。
「まあね」
殺意の輪郭はね。
「相変わらず恐いおっさんや」
声の位置が変わる。
「そうでもないさ」
「いややなあ。ボクより他人の血ぃ浴びてはる人が」
「誰も私を満足させなかったからね」
笑い声。
「……当たり前や。虚ろやないか、中身」
笑い声は止まない。
「誰が何入れよっても、満ちるわけあらへん」
「お前も同じだと思っていたよ」
気配が密かになった。構わずに藍染は続ける。
「お前に巣食う闇は、一人の女が打ち消せるようなものではないだろう」
より気配は密かになる。ギンが動きを止めていた。
「闇は、ある。そのままや」
低い声。
「ただ、光が射した」
ぴくりと自分の眉が上がるのを感じた。
「その光は私の手で握り潰せるほどに儚いな」
「そうやね。そうやろね」
気配が消えた。
「でも、眩しい」
間近に声が、と認識すると同時に白い影から高速で伸びてきた刀を打ち払い、藍染は一歩で距離を詰めて下から斜めに切り裂いた。
残像が裂かれて消える。
その奥からギンが現れる。
鋼の激突する音。
薄い笑み。
弾かれるようにギンが再び消えた。周囲を見渡し、藍染は空を仰いだ。
空は、見えない。