【※重要なお知らせ】Alfoo有料化への移行に伴う重要なお知らせ。
ときめきの居場所


勝ち負けは時の運 /高校生
 修学旅行の部屋割りが決まったあとで、その声は上がった。
「部屋はそれでいいけどさ、バスの席はくじ引きにしねェか?」
「賛成!」
「いいと思う!」
 宿の部屋は、話し合いで決めた。普段つるんでいる者同士が同部屋になっている。4人部屋のときはルフィ、ゾロ、サンジが一緒で、2人部屋だとルフィとゾロ、サンジとおれだ。どう分かれてもかまわなかったけど、サンジが「じゃあおれ、ウソップと」って言いだしたから、そうなった。
 バスの席について意見が出たのは、たぶん、寝る部屋とまでなると遠慮があったんだと思う。女性の先生もほとんどいない男子校の宿命なのかもしれないが、実はこっそり、サンジにはファンが多い、らしい。ついでに言えば、ゾロも。――いや、ゾロの場合はファンと言うより、わりとガチみたいだが。いやいや、マジでお前ら、それでいいのか。
 とにかく、さっき声を上げたのはおそらくサンジのファンで、同調しているのはふたりのどっちかの隣を狙っている奴らだろう。
「へー! おもしろそうだな!」
 ルフィがそう言ったので、バスの席はくじ引きで決めることに決定した。

 クラス全員分の名前を書いた紙が、箱に入っている。クラス委員がその中から1枚を引くと、キャベンディッシュの名前があった。次に、キャベンディッシュが箱から1枚を引く。書かれてあった名前はバギー。それぞれ違った意味で派手な男だが、おれはふたりが話しているのを見たことがない。案の定、どっちも困ったような顔をしている。
 半ばを過ぎた頃に、クラス委員がサンジを引いた。まだペアの決まっていない者が固唾を飲んで見守る中、サンジはゾロの名前を引いた。
「えー……」
「代わり映えしねェじゃん」
 文句が静かに上がるが、バレバレながらそれが主目的とは知られたくないのだろう、やり直しを求める声は上がらなかった。そこから先は盛り上がりもなく、みんな粛々とくじを引いていった。

「じゃあさ、今度は2日目のバスの席!」
 懲りない誰かが提案する。
 同じことを繰り返して、今度は最初のほうでゾロがサンジの名前を引いた。
 3日目のバスも、ゾロがサンジを。4日目はサンジがゾロを。
「おめーら、ほんっと仲いいなー!」
 クラスの微妙な空気をものともしないルフィがあっけらかんとそう言う。ゾロはいつもよりちょっとだけ不機嫌そうな様子で、サンジはほんの少し落ち着かない。とにかく、ゾロとサンジは修学旅行中、バスではずっと隣同士だってことが、決まった。


 剣道部のゾロが部室に向かい、家の近いルフィが自転車で走っていったのを見送ると、サンジとおれは駅へ向かった。時折追い越していく同級生が、おれたちに声をかけていく。
「縁っていうか、運っていうか。おめーら、やっぱすげェな」
 ふたりとも、不正なことなんてこれっぽっちもしていないのだから。
「ま、よかったんじゃねェの。あいつ、あれでけっこうやきもちやくだろ」
 おれが言うと、サンジは「……そうだけどさ」と俯く。
 ゾロとサンジは、お互いのことが好きだ。おれはそれをだいぶ前から知っていた。おれだけが知っている状態が長く続いて、最近になってようやく、気持ちが通じ合った。サンジが2人部屋の相手におれを選んだのは、微妙な男心ってやつだろう。両想いだってわかる前だったら、サンジはきっと、ゾロと一緒の部屋になりたがっただろうと思う。
「部屋も、いつでもゾロと代わるぜ。ゾロは絶対、お前と一緒がいいだろうからなァ」
「……頼むからウソップ、一緒に寝てくれ」
「おい。それ、ゾロの前で絶対言うなよ。誤解されて殺される」
 サンジがおれを指名したときの、ゾロの一瞬の表情をおれは見逃していない。そこには完全な殺意があった。怖い! と叫ぶ前に表情がもとに戻ったから、誰にも訴えることはできなかったんだけれども。
 まあ、ずっとそっと見守ってきたおれからすれば、怖いのもかわいいモンだ。ゾロとサンジが一緒にいるのはすごく自然で、そんでもって最強で。運も味方につけてんだから、やっぱりふたりは、ふたりでいるのがいいと思うんだ。


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まったくネタが浮かばなかったお題その1。 かなりやっつけな感じ。
15/09/17 (Thu) 20:46



心理テスト /海賊
 ニュース・クーの運んできた雑誌を、外甲板に広げた大きなパラソルの下でナミとロビンがくすくす笑いながら読んでいる。明るくてキラキラしたその光景に、サンジは鼻の下を伸ばした。
 海賊だから、なかなかのんびり平和にとはいかないが、ナミもロビンも笑っているのが一番いいと、思っているのはもちろんサンジだけではない。
「ナミすゎーん! ロビンちゅわーん! フレッシュピーチティーです。どうぞ」
 コンポートにしておいた桃をたっぷり入れたアイスティーは、暑い日にぴったりだ。ありがとうとふたりが受け取ると、サンジはくるりと回ってどういたしましてと恭しく礼をする。
「そうだ。サンジ君、ここ座って」
 ナミに誘われて、サンジが拒否するわけもなく、運んできたトレイを持ったままでパラソルの下に座った。
「ハイ、ゾロもね」
 ナミはたまたま通りがかったゾロの手を掴んで、サンジの隣に座らせる。その手際の良さに、遠くでそれを見ていたウソップとチョッパーは、怖いからしばらく近寄らないでおこうとひそひそ言い合った。
「心理テストよ。あまり深く考えずに答えてね」
「そういうのは好きじゃねェ」
「拒否権はありません」
 ゾロにぴしゃりと言い放つと、ナミは雑誌をゾロとサンジに見えないように胸の前に持った。
 ロビンは静かに微笑んでいるだけだ。

「ええとね。あなたは森の中を歩いています。小屋があったので入りましたが真っ暗です。ロウソクがあるので点けました。さて、何本のロウソクに火を点けましたか? そしてロウソクはどれくらいの太さですか?」
 雑誌をちらちら見ながら、ナミがふたりに問う。サンジは頭の中に小屋を思い描いているのか、真剣な顔で考えてみせた。
「あんまり深く考えないでってば」
 ナミが促すと、サンジは慌てたように答えた。
「じゃあね、ロウソクはかなりたくさんだね。数えきれないぐらい。で、ほとんどはすごく細いんだけど、真ん中に置いた1本だけ太い」
 ちまちましたヤツ、とゾロが揶揄すれば、サンジは噛みつきそうにキーッと目を吊り上げる。
「デケェのが1本で十分じゃねェか?」
「あんたはそうよねぇ」
 ナミの含み笑いに、ゾロが溜息を吐く。

「じゃあ、次ね。その小屋に泊まったら、次の日に知り合いがやってきて、『そこにある鞄を取ってほしい』と言います。どうしますか?」
「んなの、自分で取りに来いよ」
「お前、冷てェな……。おれはちゃんと持って行ってやるぞ!」
「ハイハイ。あんたたちって、ほんっとわかりやすい」
 3人の掛け合いに、ロビンは声を上げて笑った。
 それを見たフランキーが、ぎょっとしたように「何だ、あれ」とウソップとチョッパーに訊く。二人は首を横に振った。すごく楽しそうに見えるけれど、そう思って近づいたらダメなやつだ。ウソップの危険センサーがそう反応している。

「ねェ、ナミさん。これ心理テストってことは、結果があるのかい?」
「もちろんあるわよ。知りたい?」
「やめとけよ。碌なこと言わねェぞ」
「なんだと! てめェ、ナミさんに酷ェこと言ったら許さねェぞ」

 どんな会話からも喧嘩につながる二人に構わず、ナミは雑誌のページをめくった。
「じゃあね、ひとつめからね。ロウソクは付き合う人の数、太さはその関係の深さなんだって」
「えっ、ええっ……???」
 細いのが数えきれないほどたくさんだと答えたサンジは、嬉しいようなおかしいようなだ。まず今の時点でナンパしてもなかなかうまくいかないし、それよりも細いイコール関係が浅いなんて。もしお付き合いできるならば、サンジはそのレディを心底大切にするつもりなのに。
「サンジ君のは、付き合うっていうか、好きになる人の数じゃない? 女の子にいつも好きだって言ってるじゃない。それより、ポイントは1本太いのがあるってことだと思うわ。ゾロもそうでしょ」
「い、いや、それは、」
 肩肘を付いたゾロは、さっきからずっと目をそらして、知らないふりだ。サンジひとりでうろたえている。これはマズかったかなと、今さら思ってももう遅い。

「で、もうひとつは、恋人に別れ話をされたときの反応。持って行ってあげるのは、相手の意見を尊重して、きちんと結論を出すのよ。サンジ君ってそういうところあるわよね」
「……そう……かな……?」
「取りに来いって言って渡さないのは、別れないってことらしいわ」

*

「優しいのね」
「やーだ。あいつらをからかって遊んだだけよ」
 照れて耳を赤くするナミがかわいくて、ロビンは思わずオレンジの髪に触れた。
 ゾロとサンジの様子に違和感があったここ数日、放っておけばいいというスタンスの仲間の中、ひとり気を揉んでいたのはナミなのだ。
 勝手にぐるぐる考えた末に、なぜか身を引こうという結論に達したらしいサンジが、ゾロを避けていた、ということらしい。急に避けられて、心当たりもなく意味のわからないゾロは、イライラするのみだった。きちんと話をすればいいのに、とはロビンも思っていたのだが、口出しするほどおせっかいでもない。どうせ落ち着くところに落ち着くのだろうし、そうでないなら、それまでの関係なのだろう。
 とりあえずはこれをきっかけに、ゾロがサンジを展望室に引っ張って行った。時にはきちんと話をすればいいのだ。見えない力で引き合っているような二人だから、言葉を交わしたらきっと大丈夫だろう。
「ナミが二人のことを大好きなのは知ってるわ」
「そんなんじゃないわよ」
 赤くなったままで、ナミは再び雑誌を開いて目を落とす。まだほとんど残っているピーチティーのグラスが汗をかいているのに気付いて、中の桃をつまんで口に入れた。コンポートの桃は、蕩けるように甘い。空の青がまぶしく目に沁みた。


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ゾロは心理テストととか、まんまな結果が出ると思う。
15/09/16 (Wed) 20:11


役目の裏側 /マフィア(シアジノ)
 10才かそれ位の頃だったと記憶している。ほとんど屋敷の中に閉じ込められ、出掛けるとなればダース単位で供が付いてくる。そんな日常に飽きて、一人で屋敷を抜け出した。しばらくは暗い石畳で、家々の窓は固く閉ざされ、野良猫以外の生き物には会わなかった。そのまま歩き続けていたら、道は石から土へと変わり、店が見られるようになり、歩く人に出くわすようになった。さらに歩けば、風が変わった。海からの潮風。そこに柔らかな甘い香りが混じる。香りに引き寄せられるように進んだ。
 花畑かと思った。黄色や白の花がたくさん咲いていたからだ。父親が本棚に飾ってある画集の中に、そういう絵があった。花畑というものを見るのは初めてで、さらに中へと入っていった。大きな赤い花が咲いていると思って近づいたら、真っ赤に熟れたトマトだった。トマトは皿に乗っているところしか見たことがない。秘密の実のようにそのトマトは魅力的で、思わずそれをもいで食べた。ほのかに甘く、濃厚で、海が近いせいか少し塩気を感じるトマトだった。
「あーっ! 泥棒!!」
 甲高い声に驚く。振り返ると、金髪の子供――年齢は同じぐらいか――が、血相を変えて走ってきた。どこに泥棒がときょろきょろ見回していたら、その金髪はふわりとジャンプして、跳び蹴りを食らわせてきた。
「いってェ! いきなり何すんだ!」
「それはこっちのセリフだ、トマト泥棒!」
「アァ!? ――……あ、」
 頭に血が上りかけたところで、手に握った齧りかけのトマトを思い出した。自然にあるものと思ったのだが、違うのか。
「これ、お前のなのか。知らずに食べた、悪かった」
「え、なんだよ……」
 拍子抜けしたのか、金髪は吊り上げていた目の力を緩めた。もともとはどっちかというと垂れ気味のようだ。眉がぐるっと巻いていて、ビー玉みたいな青い目を縁取っている。
「ここらへんの野菜は、全部うちで作ってんの。うめェだろ」
「ああ。食べたことない、こんなうまいトマト」
「へへっ」
 正直に言っただけなのに、金髪は頬をピンク色にして笑った。ぷにぷにして、トマトよりうまそうだ。
 その後、金髪は上機嫌で育てている野菜の説明をした。パプリカ、レタス、ズッキーニ。どれも料理されたものしか知らないから、「カリフラワーってこんなデッカイのか」とか「キャベツって丸いのか」などといちいち驚く。丸々としたキュウリを取ると、金髪はそれをポキッと折って、半分を寄越した。
「デカくなりすぎてっから、ちょっと水っぽいかもしれねェけど」
 そう言われて齧ったそれは、水っぽいというよりみずみずしく、さわやかな味がした。
「うめー!」
「へへっ」
 野菜を褒めると、金髪は笑う。おれの髪をパセリかブロッコリーみたいだと言うから一瞬怒りかけたが、こいつの好きなものに例えてんだから褒めてんのか、と思い直した。

「こういうのを作る仕事ってのもいいな」
 座って黄色いパプリカを齧りながら、「このへんはハーブ」と説明されたあたりに咲く小さな花を眺める。金髪はおれの後ろに反対を向いて座った。背中の下の方がちょっとくっつく。
「――おれは、これを料理していっそううまく食べてもらいたいんだ」
「コックになるってことか?」
「うん。……無理なんだけど」
 後ろで俯いたのか、くっついている尻のあたりがより強く密着する。
「今から修行すりゃ、無理じゃねェだろ」
「そういう問題じゃ、ねェんだよな……」
 おれは立ち上がって、金髪の正面に行った。
「諦めんなよ。おれ、食いに行ってやるよ! お前の最初の客になってやる」
 三角にした膝に顔を埋めていた金髪は、そろりと顔をあげて、「本当?」と訊いた。大きく頷いて答える。
「お前はなりてェモンってあんの?」
「ああ。なりてェっつうか……」
 剣術は物心ついたころからやっていた。稽古は好きだ。銃も最近教えられたが、剣のほうが性に合う。
「なんつーか、ただ戦うためだけに、戦いてェんだよな」
「ふーん?」
「シマの取り合いとか、そんなん関係なく」
「シマ?」
「……いや、なんでもねェ」
 なんとなくしんみりした気分になっていたら、「どこだチビナス!」という怒鳴り声が聞こえてきた。
「やっべェ、ジジイだ。おれ、行かなきゃ」
「おう」
「お前、名前なんて言うんだ?」
「ゾロシ……、ゾロだ。てめェは?」
「おれは、……サン、……ジ」


*


「ドン、不審な手紙が届いていますわ」
 ロビータが白い封筒をゾロシアに見せる。宛名には『Zoro』とだけ、差出人の名前はない。
「私が開けましょうか」
「ああ、いや……」
 光に透かして見ると、楕円を歪にしたような形が浮かび上がる。ナスのような、ズッキーニのような。
「車を用意してくれ」
「かしこまりました」
 そもそも、ゾロシアをゾロと呼ぶ者などいない。ロビータが何を理由にその手紙を持ってきたのか、ゾロシアは考えようとして、やめた。ロビータはしばしば何を考えているのかわからないところがあるが、頭が切れて手際がいい。ゾロシアが幹部にまで引き上げた女だ。

 ロビータが出ていって一人になると、ゾロシアは封筒を開けた。
『明後日に開店します。今夜お越しください。S』
 おかしな形に切られた紙に、そう書かれてある。
「なぁに? ラブレター?」
 ノックもせず入ってきたナミモーレが、思わずにやけているゾロシアを揶揄する。互いに赤ん坊の頃から知っているナミモーレは、ドンであるゾロシアにも敬語を使わない。そのせいで、ファミリー内外で二人を恋人あるいは夫婦だと思っている者が多い。ナミモーレはそれを「都合がいいから」と否定せず、ゾロシアも好きにさせている。妹みたいなもので、結局は一番信頼が置けるのだ。
「車、用意できたって。女に会いに行くんでしょ」
「そんなんじゃねェよ」
 そういう顔してるわよとナミモーレに言われて、ゾロシアは顎を掴んで顔を引き締めた。
「おい。サンジーノファミリーのシマに、何か動きはあるか」
「え? 特に報告はないわよ」
「そうか、ならいい。明日には戻る」
 なーんだやっぱり女なんじゃない、と言うナミモーレの声を背に、ゾロシアは部屋を出た。


 国境を越えて中立の都市、その端に店はあった。深夜1時を過ぎているが、店には明かりがともされている。重厚な扉に手をかけると、ゾロシアが引くより先に中から押してきた。
「いらっしゃいませ、お客様」
 金髪の男が招き入れる。青い目に巻いた眉、白い肌。面影を残したままで、すらりと成長している。
「コートと、もし武器をお持ちでしたらお預かりします」
 恭しく言うのに、ゾロシアは口端を上げた。
「そんな無粋なものは持ってねェが……。あえて言うなら、おれ自身が武器だな」
 男もふっと笑う。笑い方が色っぽくなったなと思う。

 初めて食べる男の料理は、文句なくうまかった。素材がいいのは知っている。そのいいところを存分に引き出したような料理だった。
 男はこの店のオーナーで、レシピは全部作ったが、実際に店の調理場に立てるのは月に一度がいいところかもしれない、と口端を歪める。
「でもちゃんと、叶えたじゃねェか」
「そうだな。お前のおかげだ。諦めんなって、言ってくれたから」
 ゾロシアが男の正体を知ったのは、数年前のことだ。サンジーノファミリーのドンが代替わりしたというので、写真を誰かが入手してきた。その写真と名前で、野菜を作っていた少年がドン・サンジーノだと知ったのだ。一方、ゾロシア宛てに手紙を送ってきたのだから、サンジーノのほうでも情報を掴んだということだろう。あるいはずっと、気づいていたのかもしれない。
 サンジーノは、大きなグラスに赤ワインを注いだ。
「なァ、頑張った褒美をくれよ」
 ほんの僅か開けたくちびるの中から、真っ赤な舌が誘う。ゾロシアはワインを口に含んで、それをサンジーノに口移しで飲ませた。
「……ん、……ん」
 ほのかに色づいた頬は、あの頃よりうまそうになっている。舌の真ん中をなぞると蕩けそうに目を潤ませて、ゾロシアに身体を預けてきた。支えると、鍛え上げた筋肉がしっかりついていて、サンジーノがファミリー内での役目もきっちりとこなしていることが知れた。ワインはとっくにどちらかの喉を通過し、淫らな水音を立てるのはもう唾液のみだ。くちびると唾液と舌と、何が欲しいのかはっきりしないまま、互いに貪り合う。抱き締めた体の触れ合うところすべてで相手を感じ、硬くなっているところがあるのも感じ合った。そこに触れたい。でも、今はまだ。
 サンジーノがごくりと唾液を飲み込んだタイミングで、ゾロシアは名残惜しさを感じながらくちびるを離した。サンジーノの金色の髪が乱れて、白い肌に影を落とす。
「おれも、なりてェモンになれたら……。また、食いにきていいか」
「もちろん」
「そん時は、デザートも付けてくれ」
「――ああ」
 眠っていくかと訊くサンジーノに、まだ死ぬわけにはいかねェとゾロシアが断ると、笑いながらコートを出してきた。サンジーノの胸にずっと銃が入っていたのを、ゾロシアは知っている。
「待ってる、ゾロ」
 後ろからかけられた声に、ゾロシアは振り返らずに手を振った。


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「書いたことのないあの設定を書いてみよう」その2。
15/09/15 (Tue) 22:13


大事な気持ち /海賊
 展望室でトレーニングをしていたら、見張り担当のロビンに追い出された。静かに読書がしたいと言う。「見張りだろ?」と言うと「寝ているよりいいでしょう」と返されて、ぐうの音も出なかった。ゾロが見張りのときには大抵寝ていることを知っているのだ。
 それなら酒でも飲んで寝るかと、アクアリウムバーに行き、同じ種類のものがたくさん置いてある酒を1本掴む。そういうのが飲んでいい酒。同じのが数本もしくは1本しかないようなのは、勝手に飲むとコックが激怒して、向こう1週間は飲ませてもらえなくなる酒だ。そのままバーで瓶を開けようとして、小腹がすいているのに気付いた。この時間なら、まだコックは起きているかもしれない。ゾロはそう思って、ダイニングへ上がった。
 思惑通り、ダイニングからは明かりが漏れている。よし、とゾロは酒瓶をぽんと叩いた。炙った干物が出れば上等、などと期待しながら扉を開く。
 いつもならあるはずの姿が、その場所になかった。キッチンは空っぽで、ゾロは肩透かしを食らわされた気分になる。まず最初にそこに目がいったから、気づくのが一瞬遅れた。サンジはキッチンではなく、ダイニングにいた。テーブルに突っ伏している。
「……寝てんのか?」
 声に出したつもりが、口をパクパクさせただけになった。眠っているのなら、別にそのままでいい。

 今日は、海の真ん中で不運にも海軍の船に出くわして。追いかけっこに勝利するまで、およそ1時間かかった。
 その後すぐに天候が崩れて、豪雨を降らせる大きな雲から、ナミの指示で抜け出した。
 さらにはどこかの海賊団だ。大した敵ではなかったので名前も覚えていないが、海賊船のくせに女と子供が何人も乗っていたので、微妙に苦戦した。
 立て続けにそんなことがあって、やっと落ち着いたところでゾロは昼寝を決め込んだのだが、聞いた話では、このコックは起きている仲間に飲み物を出し、夕食の準備をし、ゾロを蹴り起こしてみんなで食べた。その後片づけを始めたあたりでゾロは展望室に移動したが、後から見張りにやってきたロビンが持っていたコーヒーの入ったポットと夜食の入ったバスケットは、当然サンジが用意したものだろう。

 別に、起こすのが面倒なだけだ。
 ゾロは誰にでもなく自分に言い訳をして、サンジの斜め前の椅子に座った。丸い頭を明るい色の髪が覆っている。ゾロはこの頭を見るたび、アホっぽいなと思う。ちっちゃくて軽そうなので。
 いよいよ酒瓶を開けようとしたところで、いい匂いに気づいた。ゾロは鼻をひくひくさせながら、匂いのもとを辿った。それは、カウンターに置いてあった。サンジ手製の、魚の干物。香ばしく炙ってある。
 ゾロはその皿の置いてある席に座って、やっと酒瓶を開けた。おそらくここが、コックが用意したおれの席なんだろう。そう思うと、何とも言えない気持ちになる。
 キッチンに立ったサンジが、カウンターのゾロに声をかける。『クソうめェだろ』。ゾロはいつもどおり、『まあまあだな』などと素っ気ない返事をする。たぶんそういう時間があったのだろうこの場所で、ゾロはひとり酒瓶を傾けた。
 干物は案の定『クソうめェ』し、後ろから聞こえてくる寝息は穏やかで心地いい。いつもと同じ安酒のはずなのに、ひどく上等な味に思えた。


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たぶん19才。
15/09/14 (Mon) 19:32


最強な素直 /部長×若手社員(一昨日と昨日の続き)
 料理の腕にはちょっとばかり自信がある。だが、ロロノア部長の部屋で朝食を作ったのは、それをひけらかすためでも、それでロロノア部長の心を掴むためでも、ない。
 昨日、会社で倒れた。それはともかく、その後そのまま眠ってしまった、らしい。終電を逃して家に帰ることもかなわなくなった自分を、ロロノア部長は背負って連れてきてくれたのだ。
 ロロノア部長への個人的な憧れもあるが、それ以上に『部長に迷惑をかけた』という事実は大きく、なんとか恩返しをしようと思ったのだった。あいにくコンビニではたいした材料が調達できなかったが、朝食だったらそれなりのものが作れる。
 だから、料理を気に入ってもらえたのはよかった。ほっとした。――でも。
 いくら料理がうまいからって、「朝も昼も夜も作ってくれ」って。「ここに住めよ」って。そんなの、嬉しいけど、嬉しいけどっ。
 ロロノア部長は彼女がいない理由を、「めんどくせェ」からだと言った。一緒に住んだりして、期待してしまった自分が面倒なことを言わないでいる自信など、欠片もない。

「なァ、ダメか?」
 おそらく冬はこたつなのだろうテーブルの、壁側の席。そこに座るおれの横に、ロロノア部長の手が伸びる。これって、もしかして壁ドン!? 座り壁ドン!??
「だって、そんな……」
「別にメシを作らせてェだけじゃない。お前がいたら、……なんだ、……お前がいたら、なんかいいじゃねェか」
 ロロノア部長は、きっとどんな体勢になっているのかなんて、気が付いていないのだろう。なぜだかものすごく熱心なロロノア部長に、本当にこれはマズイと思った。くらくらする。ダメだ。本当にダメだ。

「ダメです! おれ、ロロノア部長のこと好きなんです! だから一緒に住んだりしたら、期待しちゃって、面倒なこと言いますよ!」
 両手で壁ドンの腕をつかんで、そっと押し返す。
「お前、おれのこと好きなのか?」
「そうです! 面倒なの、嫌なんですよね……? おれ絶対面倒だから! 面倒なこと言ってロロノア部長に嫌われるのツライから、だからダメです!」

 ロロノア部長がぽかんとした顔をしているのに気づいて、こんな表情初めて見るなと思った、直後。
 ――ちょっと待て。おれはいったい何を言った。
 我に返って、血の気が引いた。期待してしまうからダメとかいう前に、好きだとか嫌われるのツライとか、一番言っちゃいけないことが口から出てしまってるじゃないか……!
「え、えっと、違、これは、」
「なんだ、それなら好都合じゃねェか。お前ならめんどくさくねェ……とは言わねェが、お前なら面倒でもかまわねェよ」
「ロロロロロロノア部長っ!?」
「ロはそんなに多くねェって」
 ふっと笑った顔はすごく色気があって、思わず顔が熱くなった。ロロノア部長はせっかく押し返した手をまた壁について、顔を近づけてきた。壁ドンからのキス、なんて、20年恋人がいなかった人とは思えない。でも、ぎゅっと押し付けるようなくちづけは、なんだか慣れていないようで愛おしくなる。

「ダメ、じゃねェだろ」
「ダメ……、じゃないです」
 ここに住むという意味だと思って答えると、背中に手を添えられて、ゆっくりと押し倒された。思っていたのとちょっと違うけれど、そういう意味でもダメじゃないから、まあいいかと思って目を閉じた。


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おわり。 素直というより、二人とも口が滑りすぎです。
15/09/11 (Fri) 21:32